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手のひらと手のひら Part4


「いゃ、もぅなにもぃらなぃ。サイコーすぎる……」


「見ろ!キラキラフルーツのミックスパフェなるものがあるぞ!」


「はぃ!それ頼みまーす!ウェイターさーん!ウェイターさーん?」


 俺達は部屋に荷物を置いてから、ラウンジのカフェでお茶していた。


「なんか、凄く高――良さそうなホテルですね……」


「ええ……折角ですので、奮発しちゃいました」


「えっと、ロアさんは襲庁と衛兵所に行ったんですよね?あと、ビンテンさんは?」


「なんでも、知人のところで寝泊まりするそうです。高級を冠するものは苦手と仰ってました。私としては、ペンダントのお礼にゆっくりしていただきたかったんですが……」


「……」


「……」


「あ……私もちょっと出てきてよろしいでしょうか?一人で」


 ハルは、はしゃぐセイカとイルーに目をやりながら言った。少し申し訳なさそうな表情に感じるのは、俺だけではないはずだ。


「あ、はい。お構いなく……。セイカ達と時間を潰してますよ」


 ハルは革張りの上等な椅子から立ち上がって、出口へと足を踏み出した。しかし何かを思い出したかのように、くるりと向きを変える。すると“ぬっ”と顔を近付けて、俺の顔をのぞき込むような体勢を取った。


「……それと、明日は一日空けといてくださいね?」


「え……?」


 ハルはニコリと微笑むと、ひらりと裾をはためかせて出て行ってしまった。何故だろう。年甲斐もなく緊張してしまった。


「ふぅ……」


 息を吐いて心を落ち着かせる。テーブルには空のティーカップが、ただ置かれていた。


「さて、どうするかな……」


 ホテルスタッフにどこか暇潰しできるところはないかと尋ねたところ、少し歩くと観光案内所なるものがあるらしい。パフェを満喫したセイカとイルーを連れて、早速向かってみる。簡素な建物の中の掲示物を物色していると、スタッフが丁寧にも説明を挟んでくれた。

 湾岸部には見学可能な漁港と貿易用の港湾が整備されていて、観光船に乗るなら後者の方らしい。あとは磯釣りの名所と季節外れのビーチ、それと驚くことに水族館がある。少し丘に登ると史料館を兼ねる灯台があり、夜には心霊スポットに化けるらしい。

 海から離れると劇場が三カ所と美術館、図書館を兼ねる博物館に歴史を持つ宗教施設や、独特の建築技法が用いられた襲庁舎、百貨店が立ち並ぶショッピング通りや出店がずらりの食い倒れ通り、その他偉人の墓や邸宅、高台に上がれば絶景名所と由緒ある公園といった具合に、観るところに事欠かない都市である。なんと動物園もあるのだから、恐れ入った。

 日が落ちると治安が悪くなる区域も説明してくれたので、それならとホテルに程近い劇場へ訪れることに決めた。子供向けの演目もあるらしいし。

 劇場は空に向かって縦長な建物だった。入り口には今日の演目が一覧で張り出されていた。どうやら寄席と同じように客の入れ替えはせず、演者・演目が次々入れ替わるシステムのようだ。入場券を購入して中に入る。客席は三階建てになっており、舞台をコの字型に囲んでいた。一階は既にいっぱいだったので、二階の前から二番目に腰を据えた。

 玉乗りやらジャグリングやらの大道芸の後、演劇が始まった。悲劇なのか喜劇なのか……笑いあり涙ありの内容である。終わってから漫談を聞いている内に、日が傾き始めた。

 ホテルに戻るとビンテンとばったり出くわした。


「ぬぁ。今お帰り?夕食は済ませたぁかぬぁ?」


「いいえ、まだです。どうするのかとハルさんに聞きにきました」


 ロビーではハルとロアが俺達の帰りを待っていたようだ。ビンテンが打ってつけの食事処――大衆酒場があるというので、皆で向かうことになった。


「私は片方の翼を折られた身、もう片方の翼を差し出すことなど厭わない。全てはあの方のために――」


「ですが両の翼を亡くしてしまえば、貴方は死んでしまいます」


「願わくば、私の背に残されたこの翼をあの方の背につけて、羽ばたいて欲しい……大空へ飛び立つには、二つの翼が必要なのだから」


「嗚呼、まさか二人の口から全く同じ想いを聞かされることになるとは……運命よ!貴方はどこまで残酷なのでしょう?二人はこんなにも惹かれ合っているというのに――」


 セイカとイルーは役になりきってアンコール上演を行った。変わった店名の店内は満席で賑わっていた。他の客も騒いでいるので、多少のおふざけは許容範囲だ。しかし料理が運ばれてきたのを機に、ロアが口を出した。


「こら、食事の席で暴れるんじゃない」


「おっ、パパっぽい」


「パパっぽ~ぃ」


「茶化すなよ~。実際パパだし」


 セイカとイルーは大人しく席に着いた。演劇は少し大人向けかと思ったが、楽しんでくれたようで何よりだ。


「ぬぁはは。“片翼の二人”だぬぇ。劇場に足を運んでたのかぁ」


「ビンテンさんもご覧になったことが?」


「ここの劇場じゃぬぁいけどぬぇ」


「へぇ……」


「昔から伝わる定番の物語なんですよ。小説や歌の題材によく使われるのです。演劇だと、少し大人向けにアレンジされていたのではないでしょうか?」


「しかしなんで背中に羽が生えてるんですか?全く説明がないから、そういうものだと思って観ましたけど」


「それはぬぇ。大昔の人には翼が生えてたそうぬぁんだよぬぇ……」


 俺は記憶の片隅からあの石碑を拾い上げた。エルアヘシア森林の最上部にあった石碑だ。あの石の上半分に翼の生えた人が描かれていたのを思い出したのだ。


「あ……」


 ビンテンの瞳が光る。俺は思わず口から出てしまいそうになった石碑という単語を飲み込むことに成功した。危ない危ない。


「あ~はは……そうなんですかぁ」


「……勿論、真偽のほどはわからぬぁいけどぬぇ」


 ビンテンはグラスの酒を一気に飲み干した。


 丸テーブルに置かれた大小の皿が大方空になった頃だった。ハルが席を外したタイミングで、隣に座るビンテンが耳打ちしてくる。


「ロア君にぬぁにか言われたかぬぁ?」


「はぁ……不思議なんですけど、人の心を読む魔道具でも持ってるんですか?」


「ぬぁっはは~っ。顔に書いてある」


 俺はロアに目を移した。セイカの好き嫌いを克服させようと、イルーと一緒になって奮闘中だ。痺れを切らすセイカ越しに、こちらへ戻ってくるハルの姿があった。


「余命宣告……ですかね」


 ハルは「何してるんですか?」と言う具合に、セイカの手元を覗いて笑みを浮かべる。それからロアに向けて言った。


「この後はどうします?」


「あー俺は悪いが、先約がある。セイカをお願いしていいか?」


「はい……お二方は……?」


「……僕達はもうちょっと話してるよ。お構いぬぁく」


「そう……ですか……」


 そういうのに鈍感な俺でもわかる。ハルが怒っている。ビンテンもそれを感じているようで、文字通り身の毛をよだたせている。


「ま、長旅の疲れもあるんだ。折角の観光地に寝坊は勿体ないぜ。ハメを外しすぎるなよ、兄弟」


「はい……」


 ロアの言葉に後押しされたのか、ハルはビンテンに耳打ちして何か釘を刺したようだ。


「わ、わかってるぬぁ……余計なことは言わぬぁい」


「お願いしますっ」

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