異世界 Part4
どうやら俺はハルと旅に出るようである。勿論ここに至る車中でハルから事前説明はあった。
==== 以下回想 ====
「ハルさんと観光?……ですか?」
「はい。少し長旅になるとは思いますが、途中いくつかの集落を経由します。ご期待に沿えるかはわかりませんが、この世界の一端を垣間見ることぐらいはできるのではと思っています」
「では……元の世界に戻るのは、それが終わった後……」
「はい……生憎ミスト様を還すことのできるのは、召喚主の私だけです。そのため私の身に何かあれば、ミスト様はこの世界に閉じこめられてしまいます。ですがご安心ください。この身に代えても、ミスト様は必ず私が還します」
俺としては閉じこめられる方が願ったり叶ったりなのだが……。
「私が……必ず還します……」
==== 回想ここまで ====
如何せん意識を取り戻して数時間である。他に頼る人もいない俺は、二つ返事でハルの計画に賛同せざるを得なかった。それにハルはとても悪人には見えなかったし、召喚主でもある。今のところこの異世界で、俺のことを一番理解してくれている人に違いない。それに失礼な話だが、年の割にちゃんとしているようにも思われた。
「くっくっくっ……」
静かにハルの話を聞いていた大男が、おもむろに大きな肩を上下させ始めた。俺は何が飛び出すのかと、大男に目が釘付けになった。
「だぁーっはっはっはっはっ!!」
まるで地響きである。大男はその巨大な口を、ガバッと開けて大笑いを始めた。そうかと思えば、ハルの顔を正面から見定めて言い放った。
「いいじゃねぇか!それでこそお前だ。……行ってこい」
「しかし二人きりでというのは、いささか危険なのでは…?」
別の男が口を挟む。魔王を倒したんだから、まあ戦闘面で困ることはなさそうだが。
「ん~そうだな。何か不便が生じたときの連絡係も必要になるだろう。適当な者を補佐役として随行させよう」
「それで構わぬな。ハル」
「はい、祝着に存じます」
けれどこの組織でのハルの立ち位置は、どうなっているのだろう。魔王を倒す切り札としての俺を召喚できるということは、かなり重要な役職のはずだ。それにしては腰が低いというか……。そういう性格なのだろうか。
「ミスト様。加えて条件を付けさせて頂く――」
口を挟んだ男が、今度は俺に向かって言った。どうやらこの男、この組織のナンバーツーといったところだろう。
「――無用な混乱を避けるため、ミスト様の出自は公言されぬようお願いしたい」
「あぁ、はい。そのことはもうハルさんから聞かされています。確かに行く先々で、勇者だ勇者だと騒ぎ立てられては参りますからね……」
「であればよい。安全が保証できないとハルが判断した場合、即座に観光は中止とする」
それから旅の日程や持ち物、非常時の連絡体制などの確認がなされた。斯くして俺の異世界観光は、円満に許可される運びとなった。
「おい!今夜は宴だぁ!!おめぇら!夜通し騒げ!」
一気に上機嫌になった大男の声を合図にして、一同の空気が変わった。乾杯が行われ、厳戒態勢だった野営地は一気に夜の活気に溢れた。踊り出す者、歌い出す者。陽気な音楽を背景に、盃を持った人が右へ左へ忙しなく流れる。
漂う幻灯虫達が規則正しく、波打つような光り方をするようになった。まるで冬の夜を彩るイルミネーションのようだ。それぞれバラバラに光っていたというのに、幻灯虫までもが宴を楽しんでいるようである。
イルーが並べられた料理を、次々に口へ運んでいる。俺はそれを、離れた木の根に腰掛けながら眺めていた。
「ほらよ、勇者様」
活気に押され気味の俺に、大男が一杯渡してくれた。
「あ、どうも」
軽く盃同士を鳴らし口をつける。リキュールだろうか?すっとした甘い酒だ。ドシンと大男は俺の横に腰掛ける。
「改めて礼を言う。本当にありがとう。お陰様で長年の悲願が達成できた。感謝する」
「いいえ。私など……。何せ倒した時の記憶すらないのですから」
「謙虚だねぇ。失礼だが、年はおいくつで?」
「……」
俺は正直に答えた。
「驚いたねぇ。えらい若作りじゃねぇか」
それもそのはずだ。外見はハルが良い方に変えてしまったのだから。
「家族はいるのか?」
「いません。そりゃあ故郷に親戚はいますが」
「そうか」
大男は杯をぐいと傾けて空にした。
「……あいつもな。家族はいなかったんだ」
大男はまっすぐに女性グループの中にいるハルを見た。お調子者の男達が披露しているおかしな踊りを、手を叩きながら眺めている所であった。
「天涯孤独ってのはどんな気持ちなんだろうな?勇者様には見当がつくかい?きっと心細くて、寂しくて……たまったもんじゃないんだろうな……時折な、戦場で圧倒的な孤独を味わう時が――って俺の話はどうでもいいんだ」
大男は自分の頭をトントンと拳で軽く叩いた。
「今は俺達があいつの家族だ。小さい時分から見てきたが、あいつは真面目で努力家で、真っ直ぐで……一生懸命に生きている奴だ。頑固者で強情っぱりで融通が効かない。だからなのか、時々周りが見えなくなって、突っ走っちまって、後になって思い切り後悔して、一人で背負い込んで悩んじまって、どうしようもねぇ所があるんだ」
大男は大きくため息をついた。
「……昔は、もっと笑う奴だったんだがな」
そのまま大男は、その大きな瞳で俺を見つめた。
「あいつがこの先、どうしようもなくなっちまったとき。そんなときはどうか、助けてやってくれないだろうか?」
「ウォッズ、何を話してるの?」
俺と大男との間に影を落としたのは、他でもないハルであった。それにしても、さっきの食事の席とは打って変わって言葉遣いがフランクだ。
「お?いやぁ、お礼をな。やっぱり新陽の雷霆の団長として、ちゃんと言っておきたくてな。それよりなんだ?お酌でもしに来てくれたのかぁ!?」
「――しません。飲み過ぎないでっていつも言ってるでしょ?また介抱されたいの?」
「あーわかったよ」
大男は立ち上がって退散の構えだ。
「そう言って何度目?ミポエラに言いつけちゃおうかな?」
「あ゛ぁ~それだけは勘弁だぜぇ~!」
大男の情けない声を聞いたハルがクスクスと笑った。
「勇者様。慣れないとは思うが、まぁ楽しんでくれ――」
大男が振り返り様、“ニッ”と口を歪ませた。そうして二人は酒の席へ戻っていった。
「――どうか頼むな」
その後俺はいくつかのグループに手招きをされて、様々な話を聞くこととなった。世界の成り立ちや魔物の恐怖、人々の暮らしや人の一生、魔法や精霊についてや誰がどこ出身だとか、そんな話だ。驚く程の情報はあまりなかった。というのも俺達現代人が思い描くファンタジーの世界と、ほぼ差異が見られなかったからだ。予備知識とは恐ろしい……。とは言え異種属間での交配なんていう、酒の席でしか語られない貴重な話もあったが。また俺の身の上話なんかもよく聞かれた。それには当たり障りない返事をしておいた。そうそう、幻灯虫の光り方が変わったのは、香の種類を変えたからだそうだ。他にも液体で一箇所に集めたり、特殊な加工がされた入れ物に入れて持ち歩いたりもできるそうだ。
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