手のひらと手のひら Part1
「イルー海王神ふっかぁーっつっ!……って、ぁれ?ぃっものツッコミが……なぃ」
「おはよーイルー」
「ぉはょぅセイカっち!――ミスト、どぅしたのょ?」
「あの森出てからあんな感じなんだ。上の空っていうか……それよりご機嫌だね?」
「いゃ~そぅそぅ。なんか久しぶりに思ぃっきり寝れたってぃぅか?脱不眠症ってぃぅか?一度も起きずにグースカピーみたぃな?がっつり寝ると気持ちいぃもんだねぇ……!って、ここどこ!?……そぅだ!ペンダントは見っかったのかょ!?」
「ああ、見つかったよ。ビンテンっていう猫人のお陰でね」
「……イルー、起きたのか」
「おぅ!起きたぜ相棒!なんだぁミスト!ちゃんと起きてんじゃねぇかょ!声かけろょぉ、ょぉ。もぅ安心なしなっ!どんな怪物が襲ってきても、敵無しだぜっ!?こぅなりゃ外国の魔王でも倒しに行くかぁい!?」
「……」
セイカが顔を引きつらせた。俺は仕方なしに、イルーに事実を伝える。
「イルーさぁ……あの時ハルが、十日後何か起こるって言ってただろ?あれ、何かわかったわ……」
「ぉっ!何でぃ!?ゎかったのかぃ!?話してみてぉくんなせぃ!今ならな~んでも受け止めちゃうんだっからっ!」
「六日前の十日後だから……つまりは四日後だな。俺、魔王になるわ」
「なっはっはっはっ!そぅかぃ、そぅかぃ、魔王にねぇ。そりゃ大変だっ!だけどょ兄弟!そんなんで俺達の絆が傷つくなんて、ぁっちゃぁいけねぇのさ!昔から片手で錐は揉まれぬって言ってな。一人じゃできねぇことでも、二人でやったら何とかなるもんなんだょ。だから何がぁろうと、二人で知恵を絞って、努力を重ねて、根性で乗り越えょぅじゃねぇかぃ!……で、何になるって?」
「魔王だ……」
「……はぁ゛!?……ままままままっまっまままっまままm」
「絆にひび入りまくってんじゃん!?」
荷台の床がギシリと鳴った。そういえば長い間、他の三人は姿を見せていない。
「ぬぁー嫌だ嫌だ。ミスト君がわかりやすく不貞腐れるから、僕がお説教食らっちゃったじゃぬぁいかぁ!ぷー」
「ぁぁ、ぁなたが猫人のビンテンさんねぇ。ょ、ょろしくぅ……」
「ぬぁ!?起きたんだぬぇ?よろしくぬぇ、おさk――じゃなくてイルー君!」
「は、はぃ……ぁの?そんなに近付いて……どぅかした?」
「い、いやぁ。なんでもぬぁいんだよ?ぬぁんでもないんだけどぬぇ……不思議だぬぁ……動いている君を見ると、つい……ジュルリ」
「ああああああああああああああああっ……!今ジュルリって言ったよ!?この人!!ジュルリって言った!!」
「言ってぬぁいよー」
「言った!言 ぃ ま し た!つか、近ぇょ!!」
「気のせいだよー」
「ぉぃ、待て!目がマジじゃねぇか!?目ぇっ……!」
俺は斜め前に座るセイカに確信を触れてみた。
「セイカは知ってたのか?落とし子が魔王になること」
セイカは俺から目線を逸らして答えた。
「はぁ……。そりゃあね。子供が一人で歩けるようになったとき、最初に教わるのが“自分の村を言えない奴には近付くな”だからな。落とし子が魔王の子供ってのは、子供でも知ってる常識」
それからセイカは立てた膝を崩して胡座をかいた。
「――でもさ、あたしは病院でミストから勇者だって告白された時思ったよ。落とし子と勇者はイコールじゃないんじゃないかって。今まで必ず魔王になるって言われてきた存在だとしても、ミストは違うんじゃないかって。そんなの、なるその瞬間までわからないだろう?」
「はぁ……」
俺は肺が萎んで元に戻らなくなるんじゃないかと思えるほど大きくため息を付いていた。
「あなたは……本当に……ほんっとうに……」
肩の荷が下りる。俺は頭を上げると、思わずその無防備な頭に手を伸ばした。
「ここぞというときに私の力になってくれる」
ポンとセイカの頭に乗せた手は、彼女の手によって払われてしまった。
「……なんだよ。照れるだろ」
「ありがとうございます。なんとかやってみます」
「――はむはむ」
「――甘噛みだけにしてぇー!お願ぃだからぁぁぁっ!本噛みはやめてぇぇぇっ!」
馬車を降りると見渡す限りの平原があった。緑の大地は右に左に上がったり下がったりする輪郭を折り重ねて、彼方の霞へと続いていた。その上に見えては消える道がうねうねと伸びる。
「ハルさん、ロアさん。落とし子の話、ちゃんと聞かせてください」
「……ミスト様……黙っていて、本当に……」
「もういいですよ。大事なのは、これからどうするかですから」
「……もっと感情的にこられると思ってました……」
「小さな魔法使いに、魔法をかけてもらいましたからね」
長閑なうねうね道を再び進み始めた車内で、ハルの説明が始まった。しかし俺の期待に反して、これといった収穫はないままだった。
「落とし子の出現は特定の時期や地域などに関係なく、あらゆる場所で突如として起こります――落とし子は異世界の記憶と、それぞれの特殊な能力を持って出現することが知られています――専用の術式や魔道具で鑑定を行い、落とし子と判明すれば早々に……対処されます」
淡々とした機械的な説明だった。というより、感情を押し殺しているような――わざとハルの主観が入らないようにそうしているのかとも思ったが、実のところどうなのだろう。
「魔王になる予兆のようなものはあるのですか?」
「今のところ観測されていません。しかし魔王になる行程は徐々にですが解明されつつあります――落とし子の体には、魔王になるためのエネルギーのような物質が蓄積されていくと考えられています」
ハルは自分の手のひらをコップ代わりにして、馬車に備え付けの小さな果実を乗せ始めた。
「落とし子はそれぞれエネルギーの器を持っていて、それがいっぱいになると、魔王になる――そしてこの器の大きさは落とし子によってバラバラだと推測されます」
ハルは俺にも手のひらのコップを作らせた。並べるとハルの小さな手が際立った。
「このエネルギーの蓄積は、生理現象と考えられます。息をするのと同じ――本人ですら、そのコントロールはできません。しかし蓄積の速度は大変ゆっくりなので……これは推測の域を出ませんが、人の一生分程度なら器は満たされないのではないか――という論調もあります」
「なら、私もひょっとしたら……」
「ですがこの蓄積が、早まることがあります」
ハルは俺の手のひらに沢山の果実を乗せた。幾つかは乗りきらずに床へと落ちた。
「能力の使用です――落とし子が勇者の能力を使うと、通常の数百倍以上の速度で蓄積が行われます」
落ちた果実を頬張っていたイルーが震えだした。
「じゃ……じゃぁ、俺が……俺の存在がミストの魔王化を早めてるってぃぅのかょ!?」
「わかりません。どの能力がどれだけの蓄積を生むのか……イルーがそうして姿を現しているだけで、どれだけ蓄積が早まっているのか――それはそれ相応の施設で、長期にわたる調査が必要でしょう」
「例えばイルーが魔法を使えば使うほど、蓄積は早まったりするんですか?」
「はい。常識的に考えれば、回数が多ければ……そして強力な能力であればあるほど、蓄積は早まるはずです」
「ということは、魔法を節約すれば魔王化は遅らせることができる――」
「ただ、あくまで私の見立てですが……ミスト様については赫髑王を葬った魔法で、相当量の蓄積が行われたと見て間違いないです……」
ハルは一切俺の顔を拝むことなく、ここまで話を続けている――
ご愛読ありがとうございます!
なんとブックマークに追加すると2PTが!
下の★↓の数×2PTが!
評価ポイントとして入るようです!!
そして評価ポイントが高いほどランキングに入って
皆さんに読んでいただけるということで……ぜんぜん知らなかった(;・∀・)
どうかブックマークと★評価よろしくお願いします!!!




