四角い机 Part2
「イルー……そうだな、悪かった。イルーの魔法は見事に成功したんだ。そりゃあもう立派なものだったよ。畑と魔物しかない野っ原に、天にそびえる摩天楼が築かれた。俺達は食事と睡眠を取ることができた……」
「トッピエが……グス……あいつ……。曲がる魔光弾を撃ってたんス……。死角にも届くようにって……。ジブンは……素直にスゲェって思って……グスッ」
「でもょ、俺はかなりの面積に魔法をかけたんたぜ?それが、たかが魔光弾でどうこうなるなんて思ぇねぇょ……」
「トッピエは何時間もかけて削ったんだ。村の周りを――その付け根の部分を……何周も何周も村を回りながら」
「そ、そりゃぁ……そんなことあるのかょ?そんなんゃったら……普通どぅなるかぐらぃ――いゃ、トッピエが気付かなくても、何時間もかけてゃってたんなら誰かが……」
「いや。死角に向けて撃ってたんだ。上から見たところで中々気付かない。俺もそうだった」
「私も盾の魔物を片付けてからは下に降りませんでした……」
「ジブンがもっとしっかりしてれば……っ!ヨーゾーさんのように、もっと厳しくしていれば……っ!」
「違っ――!シバン……!それは違います!厳しくしなくても、別のやり方が……!」
俺は思わず前のめりになった。しかし俺とシバンの間には、既に別の背中があるのだった。
「歯ぁ食いしばれ……」
ヨーゾーは拳にぐっと力を込めると、シバンの頬に素早いパンチを繰り出した。シバンの顔は否応なしに、拳と同じ方向へ飛んでいった。同時にゴッという骨がぶつかる音が鳴る。間髪入れずにヨーゾーはシバンの胸ぐらを掴んで言った。
「おい、勘違いするなよひよっこ――」
「ヨーゾーさん!止めてください!」
俺はその男のごつごつとした肩に手をかけた。しかし男は止まらなかった。尚もシバンの体を自身に引き寄せて続けた。
「――今回の件で悪いのは全部あいつだ。なぁ、そうだろう?あのどうしようもなく駄目で!愚図で!頭が悪くて!気の利かないウスノロトッピエの野郎だよ――」
気のせいだろうか。肩に乗せた手からは震えが伝わってくる。その男は至っていつもの様子で声を張り上げている。にもかかわらず、俺にはその男の目から涙が溢れているように見えた。
「――だから、あいつは責任を取って目出度くあの世へ逝った。てめえのケツをてめえで拭った。ただそれだけのことなんだよ。そこにお前の入る余地なんて、これっぽっちもねぇんだ。わかったか?」
「でも……でも……」
「でもも糸瓜もねぇ……これでこの話は終いだ。俺等身内の話はな――」
ヨーゾーはシバンを解放すると、くるりとハルの方へ向き直った。そうして極めて殊勝な態度で言葉を捻り出した。
「この度は俺の力不足で大変なご迷惑をおかけてしまい。申し訳ありませんでした。如何なる処分も兵長ヨーゾー・カロッチが謹んでお受け致します」
ヨーゾーはそう言うと崖の方へ足を進めた。残る魔物に向けて魔法を放ち始める。その背中には悲壮感が漂っていた。
魔物の殲滅はさほど難しいことではなかった。崖の縁は脆い地面だったため、少し魔法で揺さぶるだけで大きく崩れた。連鎖的に崩れれば崩れる程、谷底までの長い急なスロープが作られた。一旦滑り出した魔物達は止まらない。面白いほど容易く魔物を一網打尽にできた。
「今度こそ引退かもな……ヨーゾーさん」
幸いなことに近くの地面の中にはウサギに似た動物の巣が、崖には大型の鳥の巣が卵付きであった。俺達はぐうぐう鳴る腹を落ち着かせるため、手分けして食材を集めた。調理道具もポカにあらかた括り付けていたので、トントン拍子で料理を作ることができた。食事を終えたダヨソンが、ゲップをしながら俺だけに呟いたのだった。
「これまでも仲間の死は少なからずあった。手塩にかけた奴が死んだことだってある。――けど、今回は特別だ。なんせ部下に殺させちまったんだからな……」
薄暗い周囲が僅かに茜色に染まってより冷気をまとう頃、最後の魔物が谷に落ちた。その魔物が彷徨くより前に、既にその姿はロアによって観測されていた。ポカに乗った通信士が二人、波を追ってきていたのだ。ロアを連れて谷を越え、本営に事の終始を報告する。先程の原稿を元にしたロアの報告は小一時間も続き、やっと当作戦は完了を迎えた。――因みに通信士二人は俺達と共に夜を明かすようだ。
竜の頭蓋骨は良い釜になった。石を積んでその上に逆さまの髑髏を固定する。内に幕を敷いて完成である。少し浅い気もするが、満天の星空を仰ぐ露天風呂となった。
「んげー」
「なんか、その出し方嫌なんだけど……」
イルーがふざけて口から水を出している。敷いてある幕は継ぎ接ぎだらけなので、水の供給が不可欠である。ハルが石を入れているので、これから湯を沸かすのだろう。恐らく一番風呂はハル達になる。
俺は一人裂け目に目を落とすヨーゾーと並んだ。ヨーゾーの頭からは、既にちびイルーが撤退している。ヨーゾーが心配だった訳ではない。俺が心配なのは、さっきから一言も言葉を発さないシバンとペキタである。
「すみませんでした。私があなた達に干渉していなければ、こんなことには――」
「それはおこがましい考えですね。さっきもお伝えしたとおり、トッピエのミスだ。それ以上でも以下でもありません」
「――シバンの夢を知っていますか?」
「夢?いいや。そんなもんをあいつが持ってることすら初耳です」
「シバンはお金を貯めて傭兵団を作りたいと言っていました……。是非、シバンの尊敬するあなたから……何か言葉をかけてはやれませんか?」
「……柄じゃあありません……ですが」
ヨーゾーと共に膝を抱えてうずくまるシバンの元にやってきた。
「……お前、傭兵団作るんだって?」
ヨーゾーに声をかけられたからか、はたまた自分の夢の話だったからか、シバンは顔を上げてこちらを向いた。
「あ……兄貴……言っちゃったんスね?」
「すみません」
「ったく……酒の席でも一言も言わねえんだからなぁ……その夢、まだポッキリ折れてないか?」
シバンは一つため息をつくと、目線を落とし悲しげに言った。
「……わからなくなったッス。ジブンには無理かもって……」
「ひとつ先輩からのアドバイスだ……俺みたいにはなるなよ――」
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