魔物Ⅱ Part1
しかしこうしてみると魔物と一概にいっても、大小様々な姿形をしていることに驚かされる。胴が長くて足が沢山ある百足のような奴、首が長くてキリンに似ているが、足が六本も八本もある奴、蟹のような鋏を持ったゴリラ、頭が三つある猪、一つ目が異常に大きいケンタウロスといった具合に、枚挙に暇がない。
“赤白のボールから出入りするモンスター”ぐらいにデフォルメされていてくれれば、少しは可愛いと思える余地があるだろう。しかし目の前に大量に押し寄せる魔物はどいつもこいつもリアル指向である。――さながら、“すべては、因果の流れの中に”の“蝕”の様な光景である。
そんなことを思いながら土煙が上がる対岸を眺めていると、魔光弾を受けても受けても倒れない一団がいることに気が付いた。
「ハルさ~ん」
俺は声を出しながらハルの隣へと急ぐ。
「――どういう訳でしょうか!?やけにしぶとい魔物がいます」
ハルは俺が指し示す対岸を、良く見やってから言った。
「やっと出番ですね!」
ハルはそう言うと、鞘から剣を抜いた。助走を付けて飛び跳ねた次の瞬間には、その体は水面を次々と蹴って遠ざかって行ってしまった。
「イルー、行くぞ!」
「ぅおぅ!」
俺はその軽やかに舞う姿に後れを取ってはなるまいと、慌ててイルーが作ってくれた《人間ロケット》のショートカットアイコンを押した。勢いよく体が宙に投げ出される。飛距離が足りない。空中でもう一度《人間ロケット》を発動させる。そしてそのまま既に川を渡り終えているハルを視界に捉えた。上手い具合に、ハルの隣めがけて着地を成功させて鼻高々である。
「お見事です」
ハルに誉めて貰えて、今俺の顔は緩み放題だろうか?
ロアは地下シェルターのような空間に逢魔石と共に立てこもる手筈になっている。その場所にはマーキングをしておくという話であったが、探すまでもなかった。なに、せ例の魔物達が数体集まって地面を突っついているからである。
ドンッ!っと近くの地面が唸りを上げた。俺とハルが元いた川向うから放たれた魔光弾が、魔物に弾かれて地面を抉ったのである。「どこ狙ってんだ!!」とヨーゾーが部下を叱る声が聞こえてきそうだ。
俺とハルは瞬時に理解していた。この生き残っている魔物達は、例外なく盾の付いた腕を二本ないしは一本、生やしていることを。そしてその盾で魔光弾を弾いてしまうことを。つまりその腕を切り落としてしまえば、恐るるに足りないということを。
シュッ!
ハルの気配が隣から消えた。それとほぼ同時に、盾が一本空に舞い上がる。俺はハルの姿を探すため、すぐさま盾の持ち主の魔物に視線を向けた。見逃してなるものか。盾が空中で綺麗な宙返りを決めている最中、ハルは剣を続けざまにその魔物の首へと走らせていた。盾が雑に着地を決める。そして魔物の頭もまた、紫色の血を吹き上げながら地面に転がった。
それが一体二体なら可愛いものだが、ハルは五体六体七体……と立て続けに盾を空に打ち上げた。そんなものだから、恐ろしいを通り越してむしろ爽快である。
「ハルさんが張り切り過ぎると、俺の来た意味が……」
「ミスト様もおやりになればいいでしょう?」
いつの間にか戻ってきていたハルが、すぐ隣でそう言った。その不意打ちの声に、俺は懲りもせず驚かされた。だがそれにも増して魔物の不可思議な行動――というより生態が、俺をより驚かせた。
その魔物は切り落とされた仲間の腕を、盾もろとも乱暴に持ち上げる。すると自分の胴体へ、その切断面を擦り付け始めた。目を疑うことに次の瞬間、その断面は断面でなくなった。
別の個体の腕は、その個体の胴体と一体化してしまったのだ。そしてその魔物はさも元から自分が持っていた腕のように、後から付けた三本目の腕を動かし始める。……増やせば良いというものでもない気がするが……。
そしてそれは起こり始めた。
「ミストぉ……。俺、こぅぃうのムリかも……」
それは何とも悍ましい光景だった。複数の魔物がよってたかって、ハルに腕を切られた仲間を食べ始めたのだ。動き悶える仲間の皮を剥ぎ、肉を裂き、骨を割り、臓物をこねくり回して次々口に運んでいる。食べられている魔物のものか、果ては集まった魔物の熱気からか、そこら一体には湯気が立ち込め始めた。
魔物達の手と口は紫色に染まっている。そのピンク色の歯茎から生えた、人間によく似た歯で咀嚼は活発に行われた。あっという間に紫色の体液のみを残して、そこにいた筈の魔物は跡形もなく消えてしまった。
それをまじまじと見てしまった俺は、こみ上げてくる吐き気を堪えるのに必死だった。アニメやなんかでたまに見るが、いざリアルな共食いの場面には泡を食ってしまった。後ろの木の陰に隠れたイルーは、恐らく吐いているに違いない。
「魔物に私達の常識は通用しません」
晩餐を終えた魔物達は一斉に俺達に顔を向けると、何とも形容しにくい雄叫びを上げて向かってきた。ハルが一足飛びで先頭の魔物に斬りかかる。気前よく二体三体と魔物を倒していくが、四体目の魔物の盾に阻まれて勢いが殺されてしまった。
一方涙目の俺とイルーの元には、ハルをかわして一体の魔物が突進してくる。さっき三本目の腕を生やした奴ではないか。しかももう一本腕を増やして……。
「イルー!まともにやっても盾に弾かれる!何かないか?」
「ぉぇ……な、なら、これでどぅよ!」
イルーは光のレーザーを発動させた。しかしその魔法は、弧を描いて魔物とはお門違いの方向へ飛んでいってしまった。俺はこれまたイルーに作ってもらった瞬間移動魔法――今もハルが使っている〈神速〉という魔法――のショートカットアイコンを押して、魔物の突進をかわす。
するとどこかへ行ってしまったと思った光のレーザーは、軌道を変えて魔物の背中へ迫っているではないか。
「ぅへっへっへ!これぞ別々の魔法を掛け合わせて発動させたオリジナル魔法《レ・シュトー追尾型》ょ!!」
ところが、魔法が着弾するすんでのところで魔物は身を翻した。そして野球のバッターの如く、盾をスイングしてレーザーの芯を捉える。無惨にも《レ・シュトー追尾型》は、盾に軌道を変えられて後方の地面に着弾させられた。
イルーは間髪入れず地属性魔法で魔物の直下の地面を爆発させた。しかしこれも、すんでのところでひょいと横に飛んでかわされる。魔物は相変わらず俺に突進を仕掛けてきた。大きい図体の割に身軽である。
やはりハルのように盾の裏側――魔物の懐に入って、攻撃を当てる必要があるらしい。まあここで胡座をかいていても、いずれハルがやっつけてくれるに違いないのだが……。
俺は意を決してハルの真似事をやってみることにした。迫りくる魔物に向かって〈神速〉を発動させる。相手は盾を地面スレスレに構えて襲ってきている。そのためこのままではぶつかってしまう。俺はそうならないよう加減をして〈神速〉を終わらせる。それから盾の手前で《人間ロケット》を発動させて、盾を飛び越えた。そしてすかさず〈神速〉を再び発動して一気に間合いを詰める。
あとは頭上に待ち構えているであろう腕を、風魔法で斬るだけである。そう思った俺の顔を不気味な感触が襲った。まるで泥濘のドロのようなヌタヌタしたものが、顔一面に張り付いた。生暖かいそれは、臭気を次々と俺の鼻腔へ送ってくる。堪らず顔を引く。するとどうやら勢い余って、本当に魔物の懐深く――足と足の付け根のところに、激突してしまったらしい。見上げると――そんなはずはないのだが――少し恥ずかしそうな魔物の俯いた顔が覗いていた。
「イルー。思いっ切り頼むわ」
魔物との間に糸を引くヌタヌタが、一斉に振り払われる程の特大の風魔法が発動された。
事が済んで辺りを見回すと、ハルが大方の魔物を既に片付けた後だった。俺は一体を倒すのがやっとだというのに……。俺は頼もしい限りのハルに近付いて言った。
「あと一体ですね」
「はい。……ですが、少々厄介なようです」
ご愛読ありがとうございます!旧劇場版の例のシーンは熾烈でしたね~。ここまで描くか?っていう(^_^;)
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皆さんに読んでいただけるということで……ぜんぜん知らなかった(;・∀・)
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