対赫髑王由来魔物拡散波(通称:波)殲滅作戦 Part7
この国の北にはレブンクス、東には大国ゾルギラーゼ帝国という――聞くところによると――物騒な国が構えている。魔王が居座っている間に弱まった国力を回復させるには、シークの言うとおり他国への進行が最も手っ取り早い。
何せこの国は史上最悪と呼ばれた魔王ですら倒せる強力な武力を有しているのだから……。そうなったとき、俺にその覚悟はあるのだろうか?魔物と同じ感覚で、人間に魔法を向けることが……。
俺はこそこそと笑い声をあげるイルーに目を向けた。セイカとじゃれ合っている。ふっ……。無理に決まっているじゃないか。イルーが人に向けて魔法を唱えることなどない。俺もそんな命令を出すはずがない。もしそんな状況になれば、俺の我が儘はお終い。大人しく日本へ帰らせてもらおう。
「ミスト様……!さっきは感謝ッス!トッピエをかばってもらって」
束の間の空白をオドオドした若者が埋めた。
「いえいえ、私は自分のためにやったんです。彼はトッピエと言うんですか?」
「はい!トッピエの隣に座っているのがペキタ、ジブンはシバンっていいます。あっちで寝てるのがダヨソンッス」
顔を向けるとトッピエとだけ目があった。しかしすぐ目を逸らされてしまった。
「二人はスーヒガン人なんス」
「……。はっ……スーヒガンの生き残りですか……!?」
スーヒガンとは、グランディオル連襲王国の西に面していた王国である。そういえばロア先生の授業で少し触れた。既知の通り赫髑王の顕現の地であり、その国土全域が魔界化した。そのため最新の地図にその国の名は存在しない。
「……とすると、言葉は?この国の言葉は話せるのですか?」
「少しは話せるッス。けど……ジブンらの言ってることをどこまで理解しているのやら……」
俺はもしやと思い、トッピエの前に身を乗り出した。
「こんにちは。ご機嫌いかがですか?」
次の瞬間トッピエの表情が一気に明るくなった。
「そんな……。こんなことが……。うん、とてもいいよ。今はね。なんで?どこで言葉を覚えたんだい!?」
ペキタも興味津々である。
「僕達の言葉がわかるのかい!?本当に?何て言っているのかわかる?」
「はい。わかりますよ。二人のことをもっと聞かせてください」
思った通りだ。意識を向ければ他国の言語でも翻訳機能は働く。シバンもまさかという顔である。――俺はこの先、観光ガイドにでもなって食っていくのが良策ではないだろうか。
二人はとても饒舌に語り出した。とても貧しい幼少時代を過ごしたこと。奴隷狩りからやっとのことで逃れてきたこと。お金がなくて、仕方なくヨーゾーに拾ってもらったことをだ。
「まさかスーヒガン語を話せるとは……!流石兄貴ッス!!何を話してるッスか?」
誰が兄貴だ。
「彼等の生い立ちです。中々壮絶な過去をお持ちなようです」
それからは二人とシバンの間を取り持ったりもしながら話は進んだ。次第に話題は仕事の話へと移っていった。
「何故ヨーゾーはいつも怒ってるんだろう?」
「それは僕達がちっとも仕事ができないからさ」
「グランディオル語も満足に話せないしな」
「僕達の周りにグランディオル語を話せる大人がいなかったんだ。仕方ないよ」
「けれど少しは話せてたじゃないですか?」
「ああ、少しね。でも、仕事の話になるとダメだ。難しい単語や言い回しが出てきて理解できないよ」
「僕達は素人なんだ。畑仕事しかしたことがない。いきなり難しいことを要求されても、応えられないよ」
「あの敬礼もよくわからない」
「ちゃんと教えてもらったことないよね」
ハルとロアが時々やるやつか……それは俺も見よう見まねだ。一応魔道士のフリをしている以上、今度ちゃんと教えてもらわねば……。
「シバンさん。彼等は仕事で使う特定の単語や、独自の言い回しが理解できなくて困っているようです」
「そうだったんッスか……よし!ヨーゾーさんに直談判してみるッス!」
「シバンさんがヨーゾーさんに相談してくれるそうですよ」
「……」
「無駄だよ。ヨーゾーは俺達に何の期待もしてはいない」
「そうだね。どうせまた怒られて終わりだよ」
「はは……期待してるって言ってます」
「任せるッス!ヨーゾーさんもきっと話せばわかってくれるッス!」
あの手の人間に、話せばわかるは通じない気がするが……。
程なくして俺達一行は、ゼマロス川に到着した。木々の生い茂る森林を川が分断している。川幅は数百メートルはあるだろう。なかなかに大きな川だ。東の方角に目を向けると、崩壊した橋の跡が見える。あれは波の行く手を阻むためにわざと壊したのだという。
馬車に揺らされ続けて痛めた尻を撫でていると、早々にヨーゾー達と貸魔契約を結ぶ運びとなった。ロアが後頭部を撫でながら、面倒くさそうに愚痴った。
「俺、一人でいいか?」
「ダメです。私達は二人ずつです」
「よぃこらせっと」
イルーがくるりと回って手品のように出したのは、五分の一スケールのちびイルーだった。
「ほぃ」
と、イルーがちびイルーを放り投げる。ちびイルーはシバンの方向に飛んでいき、そのままシバンの頭上で静止した。
「貸魔契約完了だぜぃ」
その言葉に反応したのは他でもない、ハルとロアだった。
「た、たったそれだけでっ!?」
「もう終わったってのか!?」
「あぁ、そだけど……?シバン、なんか魔法出してみな?」
「やってみるッス……」
シバンが剣を構えて〈フィアーボール〉と叫ぶと、剣先に火の玉が現れた。剣を振りかぶると、火の玉は川の方に飛んでいった。
「できたッス!」
「本当に契約できてやがる……」
「なんて便利な使い魔なの……?」
なんでも通常の貸魔契約は、貸主が借主と一対一になって長い長い契約術式という呪文を唱えなければならないらしい。しかも読み終えたところで必ず成功するわけではなく、十回、二十回と試みてやっと成功するのだそうだ。そんな具合なので、二人は丸々一日を契約に費やす覚悟でいたという。
「イルー!ミスト!あとの四人もお願い致します!」
ハルは素早く腰を折って、深々と頭を下げた。まるで体育会系の後輩が、先輩に頼みごとをするかのように。当たり確定の契約ガチャ。強過ぎる……。
頭にちびイルーが鎮座した――その姿が端から見るとやや間抜けな――五人は借魔法の試し打ちを始めている。ヨーゾーは流石に慣れていて、すぐにハルから太鼓判をもらった。無口なダヨソンも無難にこなして合格。残りの三人はぎりぎり及第点らしい。
俺にはさっぱりだが、やはり借魔法使いにもセンスや熟練の技というのがあるらしい。確かにヨーゾーに目を向けると、一度に何発もの魔法の弾を的に素早く且つ正確に当てている。及第点の三人は単発ずつしか放てないし、魔法の発動までが長い――所謂レスポンスが悪く、尚且つ命中率も低い。
魔法の発動から結果までのイメージが、頭の中でどれだけできているかで差が出るということらしい……。それを聞いてもさっぱりだが……。
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