対赫髑王由来魔物拡散波(通称:波)殲滅作戦 Part6
「ええっ!?」
「異例の十六歳で騎士試験を合格、三度にわたる魔王討伐作戦での華々しい功績、国内随一と謳われる剣の腕と火属性魔法への造詣の深さ……まさにグランディオル連襲王国の歴史に名を刻む英雄!私達は今、生きる伝説を目の当たりにしているのですー!」
「……ハルさんって有名人なんですね」
「大袈裟です……大分装飾されています」
「そのようなお方と死を共にできるのであれば本望。もとい、そのような功績をお持ちのハル様ならどんな難局であれ、必ず打開して下さるだろうという判断で、私めは居残ったのですー」
「ですが百人でやろうとしていた作戦を、たった十人足らずでできるものなのですか?」
「……」
おいおい、ハルさん。そんな青ざめた顔で無言にならないでくれよ。不安になるじゃないか。
本当のことを言うと、俺はこの作戦には参加したくはない。何故か?それは同じ机を囲んでいる、あとの五人に原因がある。
「兵がいないことを理由に、上からの命令を中止にすることはできないんですか?むしろ私達も避難民の援護に向かった方が……」
「それがそうもいかないのです」
やっぱり何か事情があるのか……。
「この辺り一帯はパンやスープの原料の穀物が育つのに打って付けの肥沃な土地なのです。国内有数の穀倉地帯として知られています。人口の多い都市部の食卓を支えているのが他ならぬこの地域です」
「数万の魔物が闊歩すれば、今年の収穫量が減るばかりか、土壌そのものがイカレちまう。数年は浄化作業に追われるだろうよ」
「そうなれば多くの人の食に影響が出てしまうー。下手すれば餓死者が出てしまう程のー……つまりはこの戦いは、飢饉との戦いでもある。ということですねー?」
「ア、ア、ア、アノ!オレハ ナニスレバ イイデスカ!?」
ガタッと机が揺れる。突然片言で発せられた声に反応して、その男は声の主である若者に殴りかかった。その拍子で食器が何個か床に投げ出される。そして男は、いつもの調子で大声を上げるのだった。
「てめぇ!誰が喋っていいって言った!?」
男は片膝をつく格好の若者の両頬を掴むと、グイッとその顔を自分の前まで持ってきた。
「お前は余計なこと考えずに、言われたことだけやってればいいんだよ!?いつも言ってるだろ?」
昨日見た光景と同じだ。男は顔がくっついてしまうのではという程、若者の顔に近づけて怒号を発した。男のギョロリとした目が、一切逸らされることなく若者を睨みつける。
唯一救いなのは、今やられているのが昨日とは別の若者だということぐらいだ。
「ヨ、ヨーゾーさん、落ち着いてください」
男はケロッとハルの方を向くと笑顔で言った。
「すみませんねぇ。ウチの木偶が口を挟んでしまいまして」
こいつはヨーゾー。傭兵ヨーゾー班の班長である。奇しくもこの班だけは逃げ出さずに、俺達の作戦に協力してくれるらしい。
昨日馬車の整備の件でヨーゾーから説教されていた若者、今ヨーゾーによって床に顔を押しつけられている若者、それを端でオロオロ見ている若者、そして朝食を食べる手を休めない無口な中年の男の計五名がヨーゾー班の面子である。
ヨーゾーの気が済まないのか、一向に若者から手が外される気配はない。そればかりが、詰る言葉がエスカレートしている。俺はそっと椅子から立ち上がった。内から感情が漏れないように注意しながら冷静に、そして機械的にそのことを告げた。
「ヨーゾーさん、今後当作戦でそのような物騒な物言いや乱暴な言葉を使うことを禁止します。勿論、部下達にもです」
「なにぃ……?」
ヨーゾーの手が若者から離れる。ヨーゾーはゆっくり立ち上がると、俺の目の前までやってきた。威圧感がスゴい。――オレンジの服がトレードマークのガキ大将に対峙する、ダメダメ小学生は大変である。――俺は兎に角、怯まないよう毅然とした態度で言葉を続けた。
「無論、暴力なんて以ての外です。必要のない怒鳴り声もやめてください。気が散って仕方ありません」
「魔道士様?それは命令ですか?」
「おい、ミスト。やめとけよ」
「いいえ、やめません。ここに魔道士は三人しかいません。その一人が万全の状態で戦えないと言っているのです。これは作戦に大いに支障があります」
俺は震える左手を咄嗟に後ろ手に回した。下半身は謎の汗でぐっしょりである。“頼むから噛まずに言い切ってくれ俺の唇よ~”との願いが通じたのか、俺なりの口上は無事ヨーゾーに不備なく提示された。
「ふっ……依頼主様からのご指示であれば、仰せのままに致します。ですが、後悔しますよ?」
「……あなたのやり方は間違っている」
「ふんっ……こりゃまた面白い魔道士様がご担当でいらっしゃる――十倍だ」
「……!?」
「報酬ですよ。今回は聞いてた条件とかなり違う。人手が少なけりゃ、それだけ危険度も高い。何より逃げ出した奴等の分、私等がいただいても何も問題はないんじゃないですかね?」
・
・
報酬の件は後程ロアから返答する運びとなった。食事を終わらせた俺達は、残された馬車へ荷物を積み込んだ。夜逃げした連中も鬼ではない。最低限のポカと食料や備品は置いていってくれたようだ。
途中何度かヨーゾーが大声を上げそうになっていたが、俺の方をチラリと見ては声のトーンを落としていた。俺はその様子を見ては、胸の内でほくそ笑むのだった。内心びくびくしながら抵抗した甲斐があった。
馬車は台地をぐるりと取り囲むように、低地へ延びるスロープをゆっくりと進んだ。一面に広がる畑と同じ階に到達した俺達は、各々決められたポカや馬車に乗り込んだ。
四頭立て馬車の御者はヨーゾーが勤め、その横に警戒役としてロアが、一頭単独のポカにはハルとセイカ、残りは荷台である。馬車は人が歩くより少し速く進んだ。その馬車の中で初めに声をかけてきたのはシークだった。
「ミスト殿は、ハル様と長いのですかー?」
「いえ、全く。出会ってまだ十日ぐらいです」
「なるほど。というと、赫髑王が討伐されてから行動を共にしている……ということですねー?」
「そ、そうなりますね」
「……ハル様は、どのようにして赫髑王を討伐したのでしょうかー?」
「……さ、さあ……?」
「ではやはり!赫髑王はハル様によって討伐されたのですねー!?」
うわーまいったなー。こういう腹のさぐり合いは得意ではない。しかし誰々が赫髑王を討伐したといった情報は、公表されていないのだろうか?軍の関係者だとしたら、知っていそうなものだが……機密だから一部の人間にしか知らされていないのか?この男だけが知らされていないという可能性もあるが……。
「ハ、ハルさんとは、この作戦でたまたま一緒になっただけですので……はは」
「いいですねーハル様との旅路ー。さぞ満喫されていることでしょうー」
まあ、不満はない。ロアも優しいし、セイカとイルーも一緒にいると楽しい。ハルに至っては色々気を遣ってくれるし、料理は旨いし、時折女の子らしい表情を見せるときは可愛い。――至って満喫しているではないか。うん。
シークが顔を寄せて耳打ちしてきた。近いっ。
「……ホントの所、どういった任務に就かれているのですかー?魔王がいなくなった今、国外に武力の目を向けるべきと言う強硬派もいるみたいですがー?」
「さ、さあ……?」
「まー高々、軍の下っ端役人に教えられる話でもありませんでしたねー。失礼しました」
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