対赫髑王由来魔物拡散波(通称:波)殲滅作戦 Part5
==== 以下毛の生えたまん丸の音声 ====
「――煮込んだ茶色い鍋料理ではなかったではないでしょうか?」
「おおーっ、そうだそうだ。塩っ辛い味が体に良く染み渡ったよ」
「――晩御飯の献立のために竜を遣わせたのでしたら、作り方をお教えしたら私は自由の身でしょうか?」
「ふふ……君は少々真面目過ぎるきらいがあるぞ。上役のくだらない話を聞くのも仕事の内だと思い給え」
「生憎、性分ではございません」
「そう言うな。なんでも、勇者と共に旅をしているそうだな。観光目的と聞いているが……羽は伸ばせているかな?」
「さっきまでは伸ばし放題でした」
「はは……ホイネ村にリルン町か……探すのに苦労した。ユガインが君の恩師だったことを失念していたよ。次はどこに向かうつもりだったのかな?」
「休暇中です。報告の義務はありません」
「ふっ……逢魔石片手にか?……君の性格は私とて理解している。真面目を絵に描いたような君が、観光などと言い出したんだ。何か魂胆があるのではないかと勘繰りたくもなる」
「いくら駄弁を弄しても絆されるつもりはありません。閑話休題と致しませんか?」
「……そう言うなら仕方ない。君の言葉で言えば私の性分ではないが、許せ――レガン・ダ・ワーヴァン襲騎士王室近衛兵ハル・ソルオニア・ニトレマス・ファラーに命じる。勇者を使い、ゼマロス川以南への波の進行を食い止めよ」
「承服しかねます。実行は不可能です。勇者ミストは意識を取り戻してまだ数日で――」
「――決定事項だ。すでに本部で議決され、関係各所に通達がなされている――」
「――とてもではありませんが作戦に参加できる状態ではありません――」
「――今からの変更は不可能だ。貴殿を捕まえるのが、もう少し早ければ話は違っただろうが――」
「――使用魔法についても未だ全容が把握できておらず、安定的な運用が困難です――」
「――ゼマロス川以南の住民を見殺しにはできん。もう舵を切ってしまったからにはやってもらう他はない――」
「――まだ必要な信頼関係を築けているかも不明確です。制御不能に陥った場合、対応に回る手数が不足しております――」
「――私は貴殿を説得している訳でも、意見を聞いている訳でもない。ただ決定事項を通達しているに過ぎない」
「――召喚されてから勇者ミストは幾度も意識を失い、倒れています。体力面でも充分ではなく、作戦中に継続が不可能な状態に陥ることが懸念されます」
「ハルよ……君が抵抗の意思を示すことを、こちらはすでに想定済みだ。にも関わらず私がこんなに高圧的に命令できる意味を考えろ。貴殿は勇者を連れてゼマロス川へ向かい、波を食い止める。何を難しいことがある?」
「……」
「もう同じようにはならんさ」
「……なんの根拠があって……」
「あとどれくらいだ?」
「……っ」
「どれくらい使える?感覚でいい」
「わかりかねます。魔力の総量は相当なものですが……」
「お前が感じた通り話せ。あとどれくらい持ちそうだ?」
「……十日」
「……はぁ……思ったより短い……赫髑王戦での魔法か……私は残念でならないよ」
==== 毛の生えたまん丸の音声ここまで ====
そこで音声が途切れたので、俺はその毛むくじゃらの生き物を耳から離した。上司からの無茶売りとは……ハルも中々苦労しているようだ。
「十日……なんのことだろう?」
「だろ?気になるだろぅ?俺もさっき聞ぃて、急ぃでミストに知らせなきゃって」
「これはさっき竜に乗り込む前の出来事だよな?話の流れからいって、誰かの身に十日後何かが起こると考えて差し支えなさそうだな……」
「俺はミスト、お前のことだと思うぜ」
「同感だ。ヒネイルとか言ったか?ハルの身に何か起こるのだとしたら、もう少し違う表現を使っていたはずだ」
「まさか、お前が心臓発作で倒れるとかいぅんじゃないょな!?」
死神のノートかよ……っ!?
「ミストが死んじまったら、俺はどぅなっちまぅんだょー!?」
「先に俺の命を案じてくれよ……とにかくわかったのは、ハルにはまだ俺達に話してないことがあるってことだ」
まあ俺も地球に帰りたくないことを隠してるし、そこはおあいこだろうか。
可能性としてありそうなのは、強制的に送還の呪文が発動するとか、一切魔法が使えなくなるとかだろう。勿論、心臓発作も可能性の一つではある。いずれにしても望まない結末であることに変わりはない。
「それにしてもイルー……盗聴とは趣味が悪いな」
「物は試しに使ってみたんだょ……お陰で収穫ぁっただろ?」
「まあな。ありがとよ。でも矢鱈めったら使ってると、ファンが減るぞ?」
兎にも角にもわからない物はわからないので、今日の所は寝ることにする。ハルとは一度腹を割って話さなければならない……なるべく早い内に。波と戦っている間にも、十日という期日はどんどん迫ってきてしまうのだから。
日課のワープロを進めていた俺は、いつの間にか眠りについた。
・
・
「できました!!かつかつですが、どうにか遂行可能な作戦が出来上がりましたよ!皆で波を撃退しましょう!……って、誰もいない……」
朝日を浴びる静まりかえった村にハルの声が響いた。丁度捜索を終えた俺はその声の元に急ぐことにした。
「やっぱりいねーな……」
俺と同じタイミングで、ハルと顔を合わせたのはロアだった。俺も残念な報告をせねばならない。
「こっちもです」
「あのぉ……皆さん、どちらへ行かれたのでしょうか?訓練ですか?」
状況が飲み込めていないハルが気の毒である。睡眠時間を削ってまでして作戦を練っていたであろうに……。ロア共々口を籠もらせていると、もう一人の男が代わりに答えた。
「どうやらー、夜逃げされてしまったようですねー」
そう他人事のように淡泊に言ってのけたのは、昨日ギワコトと一緒に俺達を出迎えたシークである。
俺やロアが目覚めた頃には、既に相当数の兵士達がその姿を消していた。確認のために村の家々を回ってみたが、数軒を除いてもぬけの殻と化していたのだ。
「おーい!朝ご飯できたぞー」
「俺とセイカの自信作でぃ!」
朝ご飯に釣られて、この広めの民家に人が集まってきた。昨日まで三十数人いたのが、たった十人足らずになってしまった。俺達四人と一匹と、中央軍から派遣されたお役人だというシーク、傭兵の五人は同じ机を囲んだ。ハルは泣きながら両手で支えたパンをついばんでいる。
「みなさんー。書き置きがありましたよー」
シークが読み上げる。
「“――避難が遅れている集落の支援に回ります……ギワコトより”――だそうですー」
「短かっ!」
「しくしくしくしく……」
「そう泣くなよ。人の心ばかりはどうにもならねえよ」
「確かに三十人程度の頭数で波に挑もうなどと、誰も考えてなかったでしょうからねー。“死にに行け”と言われてるようなものですー」
「……」
「そういうシークさんは、なぜ逃げ出さなかったのですか?愛国心のためとか?」
「んふっ!よくぞ聞いてくださいましたー。何を隠そう、実は私……閃光の跳躍者ハル様の大ファンなのですー!」
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