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異世界 Part2

「段差があるので気をつけてください」


 恐る恐る足を伸ばして、馬車から降りる。足下には確かに土があった。日本と何ら変わらない何の変哲もない土だ。そして次第に明るさに慣れた俺の目に、まるで絵画の一枚のような景色が飛び込んできた。静かに揺れる木々と澄み渡る空。それとパノラマに広がる湖――湖畔は綺麗な弧線を描き遠くの山々へと続いている。


「もう少し湖の方へ行きましょう」


 馬車の中では気付かなかったが、このハルという女性はとても小柄だ。並んで歩いていると、声が斜め下の方から聞こえてくる。朱色の髪が日の光を反射させて、炎のように輝いて見えた。

 後方からは大勢の人の声が聞こえてきた。見返すとハルと似たりよったりの格好をした人達と目が合う。その者達は俺達を見るために、徐々に集まって来ているようであった。

 俺達の乗っていた馬車以外にも、馬車が沢山ある――もっとも馬車を牽いているのは、見たことのない四足歩行の動物だ。明らかに馬ではない。この馬のような動物と馬車が列を成して停車している。どうやら行軍の只中のようだ。

 足元には沢山の草花が生い茂り、赤や黄色の花がそよそよと風に揺らされていた。ハルは湖に続く緩やかな勾配を、ゆっくりとした足取りで進んでいく。つい先程、目を覚ましたばかりの俺の歩調に合わせるように――


 湖……水……。


 俺の中に疑念が走った。歩いてみてわかったが、しっくりこないのだ。交互に振られる手や足。胸から腹にかけてのライン。視界の端にうっすら見える顔の輪郭。一人称視点で見る範囲の自分が自分でないようなのだ。

 俺はハルを追い越して、急ぎ湖の淵に駆け寄った。何とか息を荒げながら、水面を覗き込む。するとそこには、見慣れない男の顔があった。


「顔が……違う……」


挿絵(By みてみん)


 違うとかいうレベルじゃない。かなりのイケメンに変貌を遂げている。何なら朝の連続テレビ小説で主演を張れるレベルである。


「申し遅れました。容姿は自由に決められるので、その……私の好みで」


 つまり()()()()()()()()()で異世界転移したということか!?――


「私達は魔王を討伐するために集まった義勇兵です――」



 ――イケるっ!イケるぞっ!!これはいわばSSRを超えた(ウルトラ)R、もしくは“(レジェンド)”!

 (レジェンド)(スペック)(異世界転移)だ!!!


「赫髑王デスガイザーは三十余年に渡り、この国と周辺国を苦しめてきた強大な力を持った魔王でした――」


 ――このLSIをモノにしていく!いや、モノにせざるを得ない!!!


「私達には切り札がありました。何重かの強力な古代魔法と、それらがもし徒花(あだばな)に終わった場合の最終手段――」


 ――嗚呼、神様!今まで生きてきて良いことなんてこれっぽっちしかなかった俺に、素晴らしいお恵みをありがとうございます。俺はこの異世界で、LSIを謳歌させてもらいます!



「――それがあなたです」


「は、はい(?)。……え~ははは……そうなんですね~」


 ふと我に返ると、どうやら話が進んでいたようだ。俺は慌てて取り繕い、話を合わせる。そんな俺をイルカのぬいぐるみがため息混じりに見ている。ぷかぷか宙を浮かびながら……。なんだついてきたのか。何だかんだ言って従順なのだろうか?


「私達“新陽の雷霆”を代表して……いいえ。この国全ての人を代表して、お礼を述べさせていただきます」


 気付けばハルの後方は、先程より多くの人で溢れかっているではないか。三十人?いや、もっとだ。一人一人が固唾を呑んでこちらを見つめている。誰も彼も真剣な眼差しである。


「ありがとうございました」


 ハルは丁寧に深々と頭を下げた。


挿絵(By みてみん)


 俺は表情を緩ませ、手は自然と後頭部を撫で回していた。嬉しい事実が次々と判明したせいだ。なにせ地球では褒めてもらったことなど、随分記憶を辿らないと思い出せない。「いや~」などと思慮に欠けた言葉を発する俺に、イルカが苦笑した。


「だらしがねぇ顔だな……」


「折角いい気持ちに浸ってんだから水を差すなって~」


 誰が予期できただろうか。そんな舞い上がった俺を現実に戻す言葉が、直ぐさま飛んでくるなどと……。


「それでは少々名残惜しいですが、送還の呪文を唱えることとします」


 ゆっくりと顔を上げたハルが朗らかに言った。


「そうかんの呪文……?」


「はい。勇者様は元の世界に帰って、元の生活を送れるのです」


「もとのせかい……?もとのせいかつ……?あなたがその呪文を唱えると、私は元の世界に帰るのですか?」


 ハルはなんの躊躇もなく言い放つ。


「はい!」


 あの雑居ビルの非常階段が俺の脳裏に浮かんだ。吹き上げる冷たい風が皮膚を撫で、無様な嗚咽が口から漏れ出るあの場所だ。


 そういえば俺、自殺しようとしてた……

 

 行き着く先は死。俺は元の世界に戻れば、手すりからビルの谷間へ身を落とすしかない。


「長らくお引き止めしてしまって、失礼致しました。勇者様のご活躍は決して忘却の彼方に消えることなく、語り継いでいくと約束致します。それでは……」


 一気に地獄に落とされた気分だ。ハルはいかにも“これから呪文を発動するぞ”という動作をし始めた。両手を前にかざし、呟くように口を動かす。微かに髪の毛がふわりと浮き上がった。

 俺は言葉にならない音を、必死の思いでハルにぶつけた。


「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」


「えっ?な……なんでしょう……?」


 嫌だ!元の世界になんて戻りたくない!どうか、俺に生きるチャンスをくれ!


「あ、え、……っと……。あー……っ……はっ……この世界に竜はいますかっ!?」


 ゲームやファンタジー小説の世界といえば何だ?魔法?ダンジョン?エルフ?――いや、竜だ!子供の時分、カッコいいドラゴンと旅をするゲームに俺は釘付けになった。俺にとってゲームやファンタジー小説の世界とは、すなわち「(ドラゴン)」なのだ。


「は、はい。いますよ」


 あ、やっぱ、いるんだ。

 ならせめて、「その竜を拝ませてもらうまで、この世界にいさせてもらう」という口実はどうだろう?とりあえずの時間稼ぎには、打って付けではないだろうか。竜を探している間に、俺がこの世界に居続けるための糸口がきっと見つかるはずだ!


「なら、少しだけ竜を見てみたいなぁ……なんて……」


 するとどこか遠くから、狼の遠吠えが聞こえてきた。……いや違う。これはどちらかというと、恐竜映画や怪獣映画でよく聞く鳴き声である。立ち上がって首を水平に振って音の主を探す。しかしその姿は見えない。


「上です」


「上……?」


 俺もハルに倣って馬車の方角に向き直す。馬車の後方には、木々が生い茂る森以外何もない。“上”と言われたので、その少し上の空を見渡す。青空以外の何もない。


 しかし次の瞬間突如として、その一帯の青空は巨大な陰で隠された。それはとてつもない速さで、俺の頭上を通り過ぎる。突風を巻き起こしながら轟音を轟かせ、あっという間に大きな湖の中央まで飛んでいった。まるでジェット機の離陸を、機体の真下で見ている気分だ。


挿絵(By みてみん)


 そうかと思うとその飛翔体は、それまでの低空飛行をやめて一気に上空まで昇っていく。大きな翼をすぼめていてミサイルのようだ。

 ()()()に巻き起こった風は、百花繚乱の花達から花びらを奪った。風圧で舞い上がった水しぶきが、湖一面に霧状になって飛散する。再び翼を広げたそれは、上空で待機していた群れと合流した。そして十頭ばかりの隊列を成して、遠くの空へ消えていった。

 残された俺は湖に小さくかかる虹と、ひらひらと舞い散る無数の花びらに只々見惚れているしかなかった。


「……竜……だ」

 ご愛読ありがとうございます!それにしても「ハル」って名前のキャラクター多いですよね……男女問わず使える名前だし、悪いイメージないですからね。正直ハルかぶりを避けたいので、ハルのままで書き進めるか悩みました。ですが別の名前だと、もうしっくりしないところまで人格作られちゃったのでハルはハルになりました。ハルと言えばこのキャラクター!と皆様に言って頂けるように頑張ります。


追記

ご愛読ありがとうございます!

なんとブックマークに追加すると2PTが!

下の★↓の数×2PTが!

評価ポイントとして入るようです!!


そして評価ポイントが高いほどランキングに入って

皆さんに読んでいただけるということで……ぜんぜん知らなかった(;・∀・)


どうかブックマークと★評価よろしくお願いします!!!

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