対赫髑王由来魔物拡散波(通称:波)殲滅作戦 Part3
「ふふ……イルー、貸魔契約は行えますか?」
荷物と一緒に、紐で括り付けられているイルーが答える。
「ぁ、あぁ、できると思ぅぜ。ゃゃったことなぃけどぉ……ひぃ」
竜の腹が動く度に悲鳴を上げるのを何とかしろ……。それと、また聞き慣れない単語が飛び出したな。
「たいまけいやくですか?」
「他者に魔力を貸し与えて、魔法を使ってもらうための契約です。数万という魔物の群れに、魔道士数名で立ち向かうのは無謀ですから――そこで魔法を使えない人に借魔法使いとなってもらい、一緒に戦ってもらうのです」
「数万の、魔物ですか……軽く死ねますね」
「ひとり頭何人と契約する算段なんだ?俺なんて六人がやっとだぞ?」
「十人……お願いしたいです」
ロアのやれやれ……といったため息が伝わってくる。
「作戦ですが、ゼマロス川を挟んで北と南で人を分けます。魔物が襲来する方である北側には、逢魔石と共に囮役を――そこに集まった魔物を南の班が魔法で仕留めます」
「シンプルでわかりやすいなー労働意欲が沸いてくるぜー」
逢魔石……?そうか。逢魔石の魔寄せの効果を利用した作戦か。発案者はムンノット衛兵長……。よもやセイカの取引のことを根に持って――というのは考えすぎだろうか?どちらにせよ逢魔石を脅しの材料に使ったツケが、ここで回ってきたようだ。
「はあ……冗談は事が上手く運んだ後で聞きたいものです。北の囮役は私が務めようと思います」
「ちょっと待て。ハルの戦闘スタイルには合わないだろう?俺が行くぜ。〈スティンオール〉で籠城決め込んどきゃあいいんだからよ」
「逢魔石を魔物の群れの中にただ置いておくのはダメなのですか?」
「はい。実は魔王に匹敵する強さを持つSS級の魔物の出現と逢魔石には、因果関係があると言われています。逢魔石に触れた魔物は強大な力を得るのではないか、と。ですから逢魔石を放置することは得策ではありません」
その後もハルとロアの議論は続いた。詳しくは現地で地図を広げてみないと決められないそうだが、大まかな作戦の方針は固まったようだ。そうしている内に体がふわっと浮いて横向きのGを感じ始めた。旋回しながら降下しているのが感覚でわかる。
激しい着陸をなんとか乗り切った俺達は、各々体を固定していた帯を解いて荷袋の外へ出た。――イルーなどは竜から逃げるように一目散に飛び出した――目を細める俺達を出迎えたのは、二人の男だった。
「お待ちしておりました。案内を任されております、コンコリネサレア襲魔道士ギワコトと申します。どうも。どうも」
その細目の男は片手で額の汗を拭きながら、もう片方の手を俺達に差し伸べてきた。ハルから順に名乗りながら握手を交わす。口元をその立派な髭で隠した中年の男だ。
「騎士見習いミストとモフモフ専用機のイルーと荷物運びです」
「相変わらず雑っ!」
「……あの、モフモフ専用機とは……?」
「あ、気にしないでください。あそこの青いのです……」
「中央軍のシークと申しますー」
もう一人手を出してきたのは、俺と同じくらいの背丈のきりっとしたつり目の男である。年はロアより少し上だろうか。
「では皆様!武運長久であらんことを!」
ギワコトとシークとの挨拶を一通り終えると、頭上からコレンの声が降ってきた。既に身支度を整えた――竜の腹の荷袋を畳み終えた――コレンが、竜の首の付け根に跨がりながら俺達を見下ろしていた。
「もう行っちまうのか!?」
「はい!旅の土産話でも聞きながら、先輩方と寛ぎたいのは山々なのですが……参謀室の人使いの荒さは先輩もご存知でしょう!?」
ロアは「それもそうだな」というような顔をしながら、さよならを告げた。
「ハルさん!その袋の中身。取り扱いはくれぐれも慎重にお願いしますね!」
「承知しています!コレンも気を付けて!ありがとう!」
袋というのは飛び立つ前、コレンがハルに手渡ししていた袋だ。何なのか迄は聞かなかったので、中身は不明である。
「送っていただき、ありがとうございました!」
俺のお決まりの言葉に片手を上げて返事したコレンは、手綱を握りしめた。すると竜の翼や胴の下に巨大な魔法陣が現れる。魔法陣を中心にとてつもない風が巻き起こったので、俺は思わず腕で顔を覆った。
次の瞬間には竜の巨体はもうそこにはない。俺が視界を少し上に向けると、竜の後ろ姿だけが空に浮かんでいた。
「行ってしまいましたね」
「もっと竜と仲良くなりたかったな……」
ため息混じりに呟いた俺とセイカだった。
「ぉれはもぅこりごりだぜぇ……」
「彼は王国軍所属ですが、王室参謀室からの勅命も下る一等通信士です。時計を気にしていたので、別の仕事に向かったのでしょう」
俺の名残惜しい気持ちなど知る由もなく、竜の姿は見えなくなった。
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俺達はギワコトに言われるがまま歩を進めていた。
「ここバギタ村は、ゼマロス川から南へ30キロメートル程の場所に位置しております。ポカを急がせれば数時間といった距離です。私共の襲ではこの地点が最終防衛ラインと考えています」
ここは小さな村であった。家畜を飼っていたようだが、全ての柵の入口は開け放たれている。動物の姿は一つたりともここにはない。段々と家屋が見えてきたが、少々寂れた平屋ばかりである。そこでは二、三十人の兵士達が、思い思いの時間を過ごしているようであった。
「元いた住民は近隣の要塞都市へ避難済みです。今は我々、軍の拠点として使用させてもらっております」
「……こりゃあ典型的な人工台地だな」
「人工だいちですか?」
「ほら、空が低く感じるだろ?これはこの土地が周りの土地より高くなっているからさ」
先程より感じていた違和感はこれだったようだ。言われてみれば、遠くの地平線と自身が踏みしめている地面のパースが違うように感じる。
「山やら丘やら出っ張った土地を平らにする。そして一円のなだらかな斜面を切り崩して断崖絶壁にするんだ。一部の通用路を除いてな」
ロアは地面に棒切れで山の断面図を書いて説明した。山の上の方を横に、左右の端を縦に切る線を書き足しながらだ。
「こうして壁を築くより、早くて簡単な要塞の出来上がりって訳だ」
なるほど。これなら魔物が突然現れても、容易に村には入れなさそうだ。村の出入り口の道さえ塞いでしまえば良いのだから。きっと魔道士を配備できない小規模集落では、このような防災――もとい、防魔物対策が執られているのであろう。
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