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対赫髑王由来魔物拡散波(通称:波)殲滅作戦 Part1

 思い思いに散らばっていた四人が一箇所に集まった。ハルの後ろにセイカとイルーと……ついでに俺も隠れる。一同はハルの陰から頭だけ出して、その飛来する何かをじっと見つめた。

 いよいよかという大きさになったその影は、そばまで来ると俺達の上空をくるくると旋回し始めた。ここでようやく俺はその影が竜だとわかった。徐々に高度を下げてくる。身構える俺にハルが言う。


「心配ありません。王国軍所属の竜です。ですが、妙ですね……」


 竜はその巨体を器用に上にそらして、スピードを殺しながら着地した。土煙が数十メートルに渡って広がり、前足が地面を踏みしめる時にはドシンと地響きが起こった。茶色の視界の中、ハルを盾――もとい先頭にして竜に近づく。

 竜の背中から降りてきた兵士らしき人が、手を頭上で振って何やら竜に合図を送っている。さながら暴れ馬をなだめるカウボーイのようだ。竜の両翼が畳まれて、落ち着かなかった長い首と尻尾が胴に沿って丸まる。竜は一つ大きな息を吐き出すと、大人しくなった。

 それを認めるやその人は、俺達に駆け寄りながら身に纏っている厚手の服の紐を解き始めた。ゴーグルと“マタギがかぶっていそうな耳が隠れる帽子”が外されて、やっと男だと確認できた。


「お久しぶりです。ロア先輩、ハルさん。随分探しましたよ。間に合ってよかった」


 その男は開口一番そう言いながら、首から下げた懐中時計の蓋をパチンと閉じた。ハルより少し高いくらいの背丈だ。童顔でハルと同じか年下に見える。


「コレンか!おおー久しぶりだなー。元気してるか?」


「ええ、お陰様で――」


 コレンと呼ばれた男が俺をじっと見つめるので、俺は口を開いた。


「はじめましてー、騎士見習いミストとモフモフ専用機のイルーと労働者其の一です」


「なんでゃねん!」


「あたし雑っ!」


「ミスト様が勇者様ですね?」


 いや、そんなあっさりと……。コレンはハルが肯定の反応をするのを待つことなく、短剣を地面に突き立てた。短剣から光が発せられる。魔法である。光が収まると、そこには半畳くらいのまっ平らな床が作られていた。それからコレンはそそくさと、肩掛けの大きなカバンから厚手の布を引っ張り出し始めた。


「ロア先輩。申し訳ありませんが、王国西半分の地図を出して、兵棋を置いてもらえませんか?対赫髑王(かくどくおう)由来魔物(まもの)拡散波(かくさんは)殲滅作戦要綱の再現で構いません」


 そう言いながらコレンは平らな床に布を広げて敷いた。その上に水晶玉やら鏡やら、細々(こまごま)とした道具を出しては並べ始めた。厚手の布にはゲームやアニメでよく見る、魔法陣のような図形が描かれている。小さな錬金術師さん、人体錬成は禁止されているぞ……?


 ロアは言われた通り、例の蜃気楼のようなモニターで地図を表示させた。そしてペラペラとページをめくるような仕草をする。すると軍に見立てた駒が所々に配置された簡略図を、立ち所に表示してみせた。恐らく前から保存していたデータだ。


「これでいいか?」


「さっすが、先輩♪」


「不思議とお前に褒められても嬉しくねーな」


 コレンは顔色一つ変えずに、平らな床にスラスラと――チョークだろうか?で――文字を書いていく。恐らく数式である。


「赫髑王軍の残存魔物の群れ――つまり“波”は赫髑王の拠点であった旧ティクス・サンザー襲の更に西方、国境の向こうからやってきます。当国西方の内陸中央には大山脈があり、魔物の進行を阻みます。そのため波は向きを変えて南下して沿岸地域に沿って南東に進むものと、旧ティクス・サンザーと王都を結ぶ街道をそのまま東へ直進する二手に分かれます。南下した波に関しては、わざとレテを素通りさせてノーノウット、ダースラー・ドットの三都の軍勢で一網打尽にします。直進した波に関しては、王都までの中間地点にあたる商業都市トノダテソンを中心に北西方向に向かって軍を配備し、西から来る波の向きを南に変えます。同都市南方に流れるゼマロス川の対岸には別軍が待機しており、波を討ち取るという作戦……ここまではお二人共よくご承知かと思います」


挿絵(By みてみん)


 コレンは口を動かしながら、カバンから出した四つの計器――砂時計が四つくっついていて、それが風速計のようにるくる回るもの、変幻自在な水銀のようなスライム状の塊、中心を抜かれた分度器が大小様々にいくつも合わさって球状になっているはかり、オーディオビジュアライザーのような光が閉じ込められたスノードームのようなもの――を相互に使って数式を築いていく。それを元に魔法陣の上に骨や宝石やらを並べているようだ。何をしているかは皆目見当がつかないが、手際の良さだけは理解できる。それにしてもやけに説明口調なのは、やはり俺に向けての解説であるのだろうか。


「――ですが、ここで問題が。作戦立案時の予測に反して、隣国レブンクス軍の動きが活発化しました。それにより一大勢力であるスツァブクォルアからの出兵が取り止めに……またそれにかこつけて、いくつかの襲が兵の派遣の中止や減員を宣言し、深刻な兵不足へ陥ることになりました」


「それで勇者を探していたという訳ですか……私が解せないのは王室近衛兵を始め、王室の各機関や新陽の雷霆の面々ですら、そのような戦術を進言する者がいるとは考えにくいという事です……作戦の立案者はどなたですか?」


 俺はハルの言葉に違和感を感じたが、確たるものではなかったので腹の底に飲み込むことにした。


「ホイネ村衛兵長ムンノット殿です」


「……はぁ……それで合点がいきました。あの方は随分ミスト様を高く買っているようです」


 ハルが困ったような憐れみのような、はたまた諦めのような表情を俺に送る。俺はただ苦笑いする他ない。ムンノットには俺が勇者だということは伏せていた筈だ。やはりセイカとの雇用契約の後で、ハルと話の場を設けたのだろう。


「つきましては勇者様に、ゼマロス川対岸にて援軍が来るまで波を足止めしておいてほしい……というのが、上からのお達しです」


 コレンは今しがた迄忙しく動かしていた手を止め、床に置いた懐中時計の針にじっと目を落としている。


「時間です。波対策本部参謀会議副議長ヒネイル殿に繋ぎます」


 ハルはロアに目で合図を送った。ロアが頷く。魔法陣からは光の柱が立ち、その中に壮齢の女性の上半身が映し出された。


「――おお、ハルか!久しぶりだな!この度は作戦の成功、実に喜ばしい限りだ!通信越しではあるが、賛辞を贈らせてもらうよ」


「ありがとうございます。皆様のご助力のお陰です――」


 光の中の女性はニュースキャスターがADから原稿を受け取るように、書類を画面の外の人間から渡されて応対を続ける。


「セイカ、竜をそばで見てみないか?」


 ロアが唐突にセイカに耳打ちをした。ぼーっとしていたセイカは首を縦に振った。


「ミストも来るか?」


「ひっ」


 ロアは俺にも話を持ちかけた。俺はこの場でハルと一緒に説明を受けたい衝動に駆られる。しかし同時に、断るという選択肢がないような気もした。正直なところ、竜を間近で見てみたい気持ちも強かった。心の葛藤の末、大人しく二人の後に続いた。……因みにやや情けない声を出したのは、隣で萎縮しているイルーである。


「まさか……怖いのか?」


「なっ!?んなワケねぇーだろっ!?……ちょっと慣れてねぇだけだょ」


 顔面蒼白でそう言われても、説得力に欠ける。

 ご愛読ありがとうございます。ロアが出した地図は近々にアップします(;^ω^)こんなん図がないと念仏みたいなものですからね……。準備が間に合わず、申し訳ありません。


追記:地図アップしましたー


追記

ご愛読ありがとうございます!

なんとブックマークに追加すると2PTが!

下の★↓の数×2PTが!

評価ポイントとして入るようです!!


そして評価ポイントが高いほどランキングに入って

皆さんに読んでいただけるということで……ぜんぜん知らなかった(;・∀・)


どうかブックマークと★評価よろしくお願いします!!!

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