鳥 Part1(≠学びの園)
「ならば、仕方がありません。ミスト様、頑張りましょう!相手は私を倒した手練ですからね!!」
「提案などしなければよかったです……」
ユガインさんは白髭の医者を呼んできて俺を診させた。退院の許可を半ば強引に取り付けて、さっさと俺を病院の外へ連れ出してしまった。こんなことなら病院食を食べずに、皆の弁当を分けてもらうんだった。ユガインさんが仕事場へ戻り、ハルもそろそろ学校へ戻りますと言った頃合いにロアが突然声を上げた。
「あーそうか。ハルが負けたのはそれが原因だな?」
ロアは自身の顎にあてていた手でハルを指差した。
「その服のままユゼルと戦ったんだろ?」
「御名答です。ですがユゼルさんが強かったのは本当ですよ!ミスト様、油断なさらぬように!」
ハルがそそくさと行ってしまった後に俺は尋ねた。
「――どういうことです?」
「ハルは国の魔道士の中でも、特に火属性魔法を極めた実力者だ。当然その装備も一級品。魔力を込めた特殊な繊維で縫製された特注品だ。そうでもしなけりゃハルの支援魔法は強力過ぎて、身に着けてる服を燃やしてしまうんだ」
「つまり借り物の制服を燃やさないように気を遣いながら戦って、実力を出せなかったということですか?」
「そういうことだ。多分、実力の半分も出せなかったんじゃないか?あー謎が解けて気分がいいぜ。さっさと仕上げちまおーや?」
それから俺達は奴隷商に扮するため、忙しく動き回った。
「ちょっと暑いな……」
「俺は息苦しぃぜぇ……」
まずは催事場の倉庫で衣装の調達である。この場でのトレンドは、正体を隠せて得体の知れない奴隷商風のコーディネートだ。イルーはマフラーのように俺の首に巻くことにした。シルエットが不格好だが、ローブを頭から被っている間は正体がバレる心配はないだろう。
俺はその足で学校に向かい、敷地内の木陰に一人でいるセイカに声をかけた。セイカは既にハルから作戦を聞いていたため話が早かった。わざと人目につくように不審な挙動を心がけて、セイカを連れ出す――もっとも、ロアがローブを気味悪い柄に染めてしまったせいで、嫌でも目立つのだが……。
その後ロアから簡単に剣の扱いを教わった。どこからか用意した気味の悪い形の片手剣を、危なっかしい手つきで振り回す。及第点を貰った俺は一抹の不安を抱えたまま、セイカを連れて北の廃坑を目指した。
「本気で隠れてくださいよ?それっぽくないですからね」とハルには言われていた――ものの、あまり山深い所まで行くと、ユガインさん達が来るとき大変だろう。裏をかいて、そこらの数ある横穴のひとつに身を隠すことにした。穴の入り口の鉄柵にかけられた、鎖と錠を破壊して中へ入る。中はひんやりしていて、日が暮れたら寒そうだ。まだ時間がある。セイカに薪を集めてくるようにお願いした。
「――ぷはぁっ!ぁー窮屈だぜぇっ!」
「さて、作戦会議と行こうか」
「なぁに。俺がっぃてりゃぁ百人力ょ……って言ぃたぃとこだけどょ。フードの中にぃるせぃで、全く前が見ぇねぇ!!」
「マジか……それで魔法が撃てるのか?」
「周囲の気を探知する魔法を発動させてはみるけどょ、自信はねぇな……」
「精霊なんだから、人の目から見えなくなるとか透明になる魔法とかないのかよ!?」
「それな!それあったら、俺も欲しぃゎ」
まさかそんな落とし穴があるとは……魔法の発動もままならないままで勝てる相手とは思えない。ユガインさんには悪いが、ドッキリ大作戦は中止にした方が良さそうだ。
「なーんてな。ほれ、それ見ぇるだろ?」
何だ?視界の端に、幾つもの半透明のアイコンが見える。
「なんだこれ?」
「魔法のショートカットだぜぃ。使ぇそぅな魔法をピックアップして、すぐ使えるょぅにしてゃったぜ!」
「天才か……」
「ふふ♪能力高ぃですから♪ぁと防御魔法とは別に、剣なんかで攻撃されたときに自動で剣でガードする魔法をかけとぃてゃるょ。物理攻撃対策な」
「イルー。お前が俺の使い魔で本当に良かったよ」
「ふふん♪ぁーぁと、その一番下のはとっておきだからな。なるべくなら使ぅなょ」
イルーから一つ一つ魔法の説明をしてもらっているうちに、セイカが薪を一杯に抱えて戻ってきた。
「ぉ!ぉかぇりぃ♪」
「こんなに沢山。ありがとうございます」
「何であたしなの?」
俺は突然そう言われて、頭の切り替えに手こずった。
「えーと……嫌だったらやめますか?今ならまだ奴隷商は一人で逃げおおせたことにできますから、ハルさんに言って……」
「違う。何であたしを助けた?」
「それは…………」
俺は咄嗟に口に出せる答えを持ち合わせていなかった――セイカの要望に応えることのできる答えをだ。沈黙が続く俺を見かねてか、セイカが補足する。
「あたしはてっきり荷物持ちの仕事は口実で、もっと酷いことをさせられると思った。案の定荷物は持たなくてよくなった。だけど、それからは思ってもみないことばかり。字を覚えろって言われたり、好きな本を見つけろって言われたり、変な服を着ろって言われたり……この数日であたしはとても疲れた」
「そりゃぁょぅ、子供が死にそぅになってたら助けるだろ!?普通」
「魚は黙ってて!」
イルーよ、俺の胸で泣け……。
冷たい風が俺達の横をかすめた。横穴の奥がどこか外へと続いているのだろう。俺はセイカから薪を一本一本受け取っては足下に並べていった。
「捕まる前は簡単だった。奴隷を連れてこい、運べ、世話をしろ。やればご飯が食べれて、やらなければ殴られた。ただその毎日だった。あたしはその毎日を繰り返していればよかった。捕まったら殺されるものだとぼんやり考えてたし、それでいいと思った。私は沢山の不幸を作ってきた人間だから……。そんなあたしにミストが死ぬ必要はないと言った。だけどそれはミストが私を助ける必要にはならない」
イルーが薪に火を付けた。浮かび上がったその瞳は、真っ直ぐに俺の目を見つめていた。
「ミストがあたしを助けた本当の理由を知りたい」
「…………」
俺はやっとのことで思考をまとめて答えを捻り出した――セイカの要望に近いと思われる答えをだ。
「聞いてください。私の国では社会――大人達皆で子供を守る決まりがあります。その中で、子供は子供であるというただそれだけの理由で、大人と分けられ働かずとも勉強したり、遊んだりすることが認められています」
セイカは俺に正対して大人しく聞いている。俺はここぞとばかりに話を続けた。
「それだけではありません。犯罪を犯した者には罪を償わせた上で、二度と過ちを犯さず生活できるように皆で手助けし、見守る制度があります。これは罪の原因が必ずしもその人だけに留まらないからです。私があなたを助けたのは、私の国の決まりに従っただけなんです」
「大人はすぐ難しい言葉で煙に巻こうとする」
見透かされている。弱った。何と言えばセイカは納得するのだろうか。建前が通用しなかった俺は話題を変えることにした。
「セイカは私達と行くのが嫌……ですか?」
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