亡国の長 Part3(≠学びの園)
「……そうですね。剣の才に恵まれていること自体は、大変良いと思います。ただ彼の場合問題は、力を追い求め過ぎているという点にある……と私は思います」
「わかる気がします。あー耳が痛いです……」
「俺もわかるなぁー。半ば魔法なんてもんが使えるから、使命感にかられてもっと強く、もっと強くって焦るんだよなぁ。俺の場合ハルなんかのできた後輩に、プライドへし折られて丸くなりましたけど」
「私ですか!?」
「ははっ喩えだよ。ものの喩え……」
ロアは表情に影を落とした。こりゃ本当にへこまされたんだろう……。
「昨晩の話と重複しますが、赫髑王の元居城に派遣されている先遣隊の調査が終わり次第、ティクス・サンザーの復興計画が始動します。荒廃した大地を三十年足らずで蘇らせる国家事業です。既に国王様と官僚達の承認は下りており、予算が組まれています。今でこそ私達の世代が主体ですが、いずれ次の世代の者達がそれを引き継ぐことになります。あと数年で襲魔道士となるユゼルの世代が、ティクス・サンザーの未来を担う。そうなったとき剣の才、魔法の才といった“力”がどれほど人々に必要とされているのだろうと、私には懸念があるのです」
『……』
「ああ……すみません。変な空気にしてしまいましたね――」
「あ、あの……。話の腰を折ってすみません。どうやって復興を進めるのか、個人的に気になるのですが……」
俺はちょこんと手を上げて、少しでも申し訳ないという態度を示した。
「ははは……ミストさんは本当に変わり者だ。流石は勇者様。勿論悪い意味ではなく、です。普通の人はそんなことまず聞いてこないもので……」
すみませんね。一応この世界をもっと見たいとハルに言った手前、見聞は広げておきたいもので……。
「少し長くなりますが、よろしいですか?コホンっ!まずは街道を整備します。人が移住しても魔界化した大地では数年間、作物の収穫は見込めません。食料や飼料は他領地に依存することになります。そこで私ども襲派の別のグループが、トノダテソンとレテにて土木工事や物流などに特化した会社をいくつか立ち上げています。物資の運送――つまり馬車の手配は、需要に応じてその都度行われていますよね?私どもはその常識を覆し、トノダテソンとレテを結ぶおよそ六百キロメートルの街道を、毎日定時に往復する物流網を完成させたいと考えています。モノを常に循環させると共に、襲内に人が入ってきやすくするための施策です」
「ですが今のティクス・サンザーは、荒廃した大地しかないんですよね?いくら公金を注ぎ込んで人を呼んでも、外に売る物がなければイタズラに復興が長引くだけでは……?」
俺はそこまで言葉を発して気付いた。確か魔大陸には多くの貴重な資源が眠っているんじゃなかったか?魔力を蓄積した魔石が……。
「……魔石……?」
「はい。三十余年というと、大地の歴史からしたら短い期間です。ですが魔界化していたことで、平野部でも魔石の鉱床が発見できる可能性があります。更にティクス・サンザー襲はここムムトセラート襲同様、国内有数の大山脈を有する襲領地です。狙うのは魔石が大量に埋蔵されている鉱山、魔鉱山です。この町で発展した採掘技術をティクス・サンザーに持ち帰り、三年の内に採掘事業を襲の主要産業として軌道に乗せるのが私共の計画です。そのために私は、この町をまるごとティクス・サンザーに誘致したいと考えています」
「まるごとですか……?」
「勿論、それは私の願望です。しかし新たな採掘技術の扱いに精通したこの町の仲間達。そのノウハウは、ティクス・サンザーの復興に不可欠なものです。できることなら、まるごと開墾事業に手を貸していただきたい、というのが正直なところです。実はこのリルン町の鉱山は、あと数年で鉱産資源を彫り尽くしてしまい、閉山することが予測されています。そういうこともあり、私はこの六年間共に仕事をこなして来た仲間達と共に、最初の入植者として現地に乗り込みたいと強く思うのです」
復興計画がどんなものかと質問してみたが、予想以上に大きい話だったようだ。このサラリーマンのような男は技術開発もそうだが、この町の人をスカウトするために皆と衣食住を共にしているのだ。
「そういった背景があって、“力”を求め過ぎるのはいかがなものかとお考えなのですね?」
「はい……。決してユゼルが次世代の魔道士に相応しくないと言っているわけではありません。むしろ彼の剣の腕を含めて勉強家といいますか、強い意志を持って実行する力を純粋に評価しています。将来のティクス・サンザーを引っ張っていける素質は充分に持っていると思います。思うのですが……」
口ごもるユガインさんにハルが身を乗り出して口を挟んだ。
「……今のままでは襲元には相応しくない、と?」
「有り体に言えばそうです。剣の道、魔道を極めるのも大切なことです。しかしそれと並行して自分の足元を見定め、仲間を作り、人を活かすことに目を向けて欲しいのです。私は他のどこでもなく、このリルン町にユゼルを住まわせている。その意味を彼が理解してくれればよいのですが……」
「私達で何かお手伝いできないでしょうか……?」
一同静まり返って「うーん」と唸り声を上げた。
「だっははは。いいんです、いいんです。お気持ちだけ頂いておきます」
「……では、こうしたらどうでしょう?」
俺はホイネ村から逃げ出した奴隷商が、セイカを連れ去るという筋書きを披露した。皆乗り気になり、どんどんアイデアが出された。結末はユゼルを地に伏せさせ、ピンチの所にユガインさんの同僚達が現れる。そして皆の力で奴隷商を追い払うというもの。“力”では解決できなかった問題を、団結の力を持って制するタネ明かしなしのドッキリ大作戦だ。
「――なぁ、奴隷商役は誰がやるんだょ?」
いつの間にか弁当を食べ終わっていたイルーが尋ねた。
「ロアさんがやるんじゃないんですか?」
「……それは後々問題が起こりそうです。というのも、ロアには王都式の剣術が染み付いています。手合わせしたら勘付かれる場合があります」
「大悪党が王都の剣を使ってたと露見すれば、天地がひっくり返ったような騒ぎになっちまうだろうな」
「できるだけ奴隷商は出どころの不明な剣を使うのが良いでしょう」
ハルとロアは揃って俺を見つめる。
「私ですか?無理無理無理!無理ですよ!」
「しかもユゼルさんはミスト様と会っていません!」
「これ以上ないはまり役だな」
「でしたら、せめて剣を振るわないようにします!生まれてこの方、剣を握ったことすらないんですから!」
ハルはやれやれといった仕草で口を動かした。
「通常魔法使いは、何かしらの依代を用いて魔力の制御を行うのです。一番汎用性が高いため、多くの魔道士は剣を使います。ミスト様にとっては、指示を出すだけでイルーが勝手にやってくれるのが普通なのかもしれません。ですがそもそもイルーの様に、非常に高い能力を持った使い魔は大層修行を積んだ、世界でも指折りの大魔法使いがやっとのことで使役できるものなのです。何も持たずに手ぶらで魔法を放ってしまえば、これまた騒ぎの種になってしまいます」
「そうだったんですか……」
「高ぃ能力♪……ふふん♪」
道理でハルもロアも魔法を放つとき剣を構える訳だ。漸くその理由がわかった――もっと早く教えてくれ。
「ですが、やはり昨日倒れたばかりの人に剣を振れというのは気が進みませんね」
「なら、こうしましょう。例の“依頼の品”を成功報酬とするのです。ハルさん方もタダで貰うのは気が引けるでしょう?」
意外と一番乗り気になっているユガインさんが最後のひと押しを決めた。
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