亡国の長 Part2(≠学びの園)
あまり怠けていると体が凝ってしまうので、食後に病院の周りをうろうろする。ベッドに戻ってしばらくすると、ベテラン看護師さんが看病しに来た。ついでに世間話でもしてみる。
「あの若い看護師は新人さんですか?」
「ああ、そうさ。もう半年になるかね。でも飲み込みが悪いから手を焼いてるよ。あんな子でもやっていけるんだから時代は変わったね~」
「昔はもっと忙しかったんですか?」
「忙しいってもんじゃないよ!朝から晩まで走りっ放しで追っつかないんだから。怪我人が溢れてベッドに収まんなかったりもしょっちゅう――」
「それはさぞかし大変だったでしょうね。伝染病かなにかでしょうか?」
「いいや。元々炭鉱なんて事故があってなんぼの場所だからね。有毒ガスに坑の崩落、火薬を使えば誤使用による怪我、事故でなくても粉塵による呼吸器系疾患や難聴、有害な魔石に長時間晒されることによる皮膚の不調、そうでなくとも腰痛、腱鞘炎は当たり前だからね。それが七年くらい前かねぇ?土狢の旦那が部下を引き連れて、この町にやって来たのは」
「土狢ですか……?」
「そうさ。誰が言い出したか、穴に潜ってばっかりだから土狢!最初はティクス・サンザーの襲元だなんて誰も信じなかったんだ。なんせ鉱山に入り浸りなんだからさ。そんな襲元どこにもいやしないだろ?ところが次第に旦那が山を仕切るようになって変わったんだ」
「事故が減った……?」
「私は細かいことはわからないけどね。魔法も使えないのに、魔法使いみたいな人だよ!まったく」
ベテラン看護師さんは仰々しい機器で俺の体温を測り終えると、他の患者の元へ行った。昨日ここで酔い潰れていたサラリーマンのような冴えない男は、どうやら只者ではないらしい。
お昼時になって、ロアとそのユガインさんがまたもやお見舞いに来てくれた。どうやらハルとここで落ち合うことになっているらしい。俺の目の前に置かれている不気味な病院食と比べると随分上等な弁当を、二人共膝上に広げて手を付けている。なんと羨ましいことか。
(だらー)
「あーそんなに見るんじゃない!精霊なんだから人間の食べ物なんて食べなくても大丈夫だろう!?」
イルーが涎を垂らして物欲しそうに見ている。俺はさっき聞いた話の真偽をユガインさん本人に直接聞いてみた。……そうでもして気を逸らさないと、俺もイルーのようになってしまいそうだ。
「私は実のところ、元々地学を専攻していたのです。王都では別の科目を教えてましたが――」
「赫髑王顕現前のティクス・サンザー襲は国内有数の鉱産資源の産出地だったと聞いていますが、それと関係が?」
ついさっき子供達に起こされたというロアが寝癖を弄くりながら話しを促した。
「いえいえ、最初はただ単に石とか魔石が好きだったんです。自然とそっちの造詣が深くなりまして……。それでここの採掘現場を見させてもらって、従来の採掘法に色々と改善点が見えてきたので、それらをひとつひとつ直していったら、いつの間にか総括責任者に祭り上げられてしまっていました」
「具体的にはどのようにして鉱山での事故を減らしたのですか?」
「それ聞きますか?えーと……ひとつは魔法の活用です。従来は鉱脈を割り出すのに歩き回って手がかりを探し、当たりをつけてから、更に掘ってみなければわからない……というような手探りな方法しかありませんでした。これは経験と勘が必要で、半ば博打のようなことをしていた訳です。私達のグループはその方法に、ある魔法をプラスすることでより精度を上げて、掘ったらスカでまたやり直しという無駄をなくしたのです」
ある魔法とは超音波やボーリング調査の類のものだろうか。あるいはもっと便利な魔法があるのかもしれない。
「他にも深部の採掘をする際の坑道の開け方にも同様の技術を取り入れて、効率的且つより深くまで掘り進めることに成功しました。同時に地盤の堅固値を数値化することで、崩落の危険を事前に察知できるようにしたり、選鉱から製錬事業にも手を加えたり、その他の工夫諸々で利益率と安全性の向上に貢献しました。時間的にも利益的にも余裕ができた分を作業員達に還元した結果、病院をこのような閑散とした風景にしてしまったのかもしれません」
「おぉー!すげぇ似合ってるじゃん!」
イルーが突然声を上げた。その方へ目を向けると、日本の繁華街にもいそうな女学生が部屋へ入ってきたところだった。こっちの世界でもこういう制服があるのかと感心する。
「ありがと」
えっ!?よくよく見るとハルではないか。男三人口を揃えて、一見女学生に見えるハルに尋ねた。
「なんだ?その格好!?」
「どうしたんですか?その格好は……?」
「生徒さんかと思いきやハルさんでしたか――これまた型破りな……」
ハルは満面の笑みを浮かべながらその場で一回転した。スカートがふわりと空中へ浮かぶ。
「どうですか?可愛いですか?」
「可愛いんじゃないか?なあ?」
ロアが同意を求めてくる。
「あ、は、はい。可愛いと思いますよ」
「よく似合ってますよ。王都を思い出します」
「(えへへ~)久しぶりの学校で、着たくなってしまいました」
「ですが、よく借りれましたね」
「校長先生にこれを見せたら工面していただけました」
ハルは例の章を自慢気に懐から取り出した。
「職権乱用」
「土豪劣紳、狐裘蒙戎」
「鹿を指して馬と為す」
「泣く子と地頭には勝てぬというやつですね」
「いいんですっ!いいんですっ!その代わり可愛くなったんだからいいんですっ!」
ハルは散々言われ頬を膨らませながら開き直った。その顔には少し反省の念もあるようだ。
「はい!イルーの分です」
ハルは手荷物からロア達が持っているのと同じ弁当を取り出した。
(ぱぁ……)
一気にイルーの顔が明るくなった。
「ありがたや!ありがたや!神様仏様ハル様~っ!」
「――そうだ先生、つい今しがた息子さんと剣の立ち合いをさせてもらいましたよ」
「そうですか。これはこれはお世話になりました。で、どうでした?」
「強かったです。負けてしまいました」
「え?嘘だろ!?形式戦でか?」
ロアがハルに椅子を出してやりながら驚きの声で口にした。
「いえ、模擬で。――ありがとうございます」
「信じられないな。百戦錬磨のハルが、よりにもよって模擬戦で負ける?こりゃあ息子さんは相当な逸材ですよ?ユガインさん!」
「はは。まぁ初等学校から剣に関しては首席を譲らなかったそうですから、そういうまぐれが起こっても不思議ではありませんね。息子自慢になってしまいますが……」
「こりゃあ、いよいよ親子二代にわたっての親子襲元の誕生に現実味が湧いてきましたね!」
「わぁ……素敵な話ですね。親子揃って襲元だなんて、おとぎ話みたいです」
「……ええ、確かに襲内でもユゼルを次期襲元に推す声があるのは事実です。……しかし実のところ私は、剣の才能が彼の欠点になってしまいかねないと危惧しているのです」
自分の弁当を包から出したハルと、席についたロアが顔を見合わせる。
「どういうことでしょう?剣の才に恵まれていることは良いことのように思いますが」
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