学びの園 Part6
「行くなぁっ!セイカ!」
俺はセイカの背中に向かって、渾身の力で叫んだ。
「俺だって同じなんだ!ここは俺の居場所じゃない。本当の居場所じゃないって、ずっと思いながら暮らしてきた!」
俺は止まってほしくて必死で声を上げた。しかしセイカは止まらない。
「けどお前達に会って、その考えはおこがましい考えだと知った。セイカ!お前の言う通り俺は恵まれている――。それに気付けなかった俺は……弱い……!」
セイカの姿が暗がりに消えそうになる。なんとか声だけは届いてほしい。
「俺は決めたぞ!セイカ!俺はもっと強くなる!強くなって一人前の騎士になって!ティクス・サンザーを復興する。そして沢山の人の居場所を作る。俺が築くティクス・サンザーには、セイカ!お前の居場所だってあるんだ!」
幻灯虫の明かりが俺の目の前を横切る。それからセイカの姿は見えなくなってしまった。
「だから行くなよ、セイカ……」
仮面の男の睡眠魔法のせいだろう。意識が遠のいてきた。
「いつまで隠れているのですか!?出てきなさい!ロアディード!!」
「はっ、はい~!」
「さっさとこの使い魔を除霊するのです!早くっ!」
「お、お安い御用で~」
「予定変更です!対人最強と謳われた光速剣《燦耀斬・百連》をお見舞いしてきます」
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陽の光が眩しい。俺は昼前の時刻を告げる鐘に起こされた。辺りはどうだ?雑に脱ぎ散らかされた作業服や空の酒瓶、肉の付いていない動物や魚の骨、大勢の笑い声。ここは俺の家だ。何故だか寝室ではなく、居室の床に敷かれた毛布の上に寝かされている。
「おう!起きたか!」
「旦那の倅が起きやがったぞー!」
俺は二、三人がかりで担ぎ上げられ、テーブルの椅子に座らされる。えらい騒ぎだ。勝手がわからないまま、勧められた飲み物を口に運ぶ。
「ぶっ!」
俺は慌ててその液体を吹き出した。なんだこれ?酒かっ?
「あはははははっ!やっぱりまだ早かったかー!」
「ダメだよ!それいっちゃん強い酒だろうが!割って飲ませんかい!割って!」
「あははははっ!割っても飲ませちゃいかんだろー!」
どんちゃん騒ぎの中、最後の記憶が頭をよぎる。
「はっ!セイカは!?奴隷商の男はどうなったんですか!?」
そこへ親父が顔を出した。
「旦那!こいつが倅に酒盛ってますぜ!」
「あぁ?おめぇーはいつも大袈裟なんだよっ!ちょびっと口つけただけじゃねぇーか!」
「まぁまぁ、喧嘩は他所でやんなよ」
親父が俺のそばまで来て言った。
「おはようユゼル。体は何ともないか?」
顛末はこうだ。
あの後ハルさんは逃亡する奴隷商を追跡。捕らえることはできなかったものの、町人に被害はなかった。丁度今日が休日ということもあって、親父の家で祝賀会を挙げようとなったそうだ。それで夜通し騒いでいるらしい。親父は衛兵と協力して町中に奴隷商出没の注意喚起をして回り、帰ってきたところだという。
「音楽は芸術であり自然科学なんだ。音を伝える振動が組み合わさり、ハーモニーを作る。これは一定の法則に則って自然に決まっているんだ。メロディだけなら単調だが、ハーモニーを合わせるとこうなる」
♪~♪~
「わぁ、すごーい!」
「ねぇ他には?他には?」
中庭ではロアディードが弦楽器を両腿に乗せ、子供達に音楽の授業をしているようだ。俺はロアディードに教えられたとおり学校へ急いだ。
休日にも関わらず、学校は球技や剣術を練習する生徒達で賑わっていた。俺は一目散にその場所へやってきた。埃を被った沢山の本がいつ開かれるかも知れず、ひっそりと眠っている図書室に。彼女は昨日と寸分違わず、同じ場所に同じように腰掛けていた。俺は恐る恐る声をかけた。
「や、やあ」
彼女が俺を見た。
「……こんにちは」
「あ……ああ、隣いいか?」
彼女が頷くので、俺は席に座る。彼女の手から本を奪って二人の間に置いた。最初のページまで戻り、声を出して読み始める。俺はなるべくゆっくり文字を指でなぞりながら読み進めた。
彼女が困ったような表情で俺を見るので、
「俺が読みたいから、読んでるんだ」
とだけ言った。一冊読み終わると彼女がもう数冊本を持ってくるので、徹底的に付き合うことにした。日が傾いた頃、司書さんに頼んで一冊だけ貸してもらうことにした。俺は言葉の学習に役立つ本を推したが、彼女がどうしても別の本がいいと言うのでそのとおりにした。
図書室を出ると、修練場から例の演奏が聞こえてきた。俺は急に開拓者の像を見たくなったので、彼女に断りを入れて像の前までやってきた。俺は修練場から聞こえてくる音楽に合わせて、基礎的な魔法を丁寧に極力弱く発動してみた。旋律の変わり目でまた別の魔法を、和声に合わせて別の魔法を同時にかける。慣れないことをしたせいか、強力な魔法を使用したとき以上に体力は一瞬で消耗した。
そして像の汚れが、ほんの少しだけ綺麗に取れているのを確認できたのだった。
翌朝俺の家の玄関に置いてあった鉱石を、浮遊台車に載せる儀式があった。何でもハルさん達の荷物なのだが、ポカも何も連れてないので運ぶのに手を焼いていたらしい。
親父が仕事で使っているという浮遊石を木箱の底面四隅と中央の計五箇所に固定して、浮かぶ木箱が完成した。その木箱に重たい鉱石をドシンと載せる。すると木箱はしっかりと地面スレスレを浮いて止まった。ハルさんとロアディードとさっきまで病院で寝ていたというもうひとりの連れの男は、歓喜の余り大騒ぎだ。
四人はこれから川を下り、ダースラー・ドットへ向かう。俺は別れ際に本を差し出してくるセイカに言った。
「俺から司書さんには謝っておく。その本は持っていけ」
「でも……」
「いいんだ!後のことは任せろ!」
「ありがとう。あたしの夢はね、少しずつでも勉強して人の役に立つこと。そして、ティクス・サンザーで暮らすこと!」
俺は彼女の笑顔を忘れない。表紙に――様々な色の羽根を持つ――鳥が描かれた絵本を抱きしめる彼女の顔を。
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