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誰がために Part2


「どぅわぁあぁ~っ!!」


「申し訳ありませんでした」


 突如として目の前に現れたハルに、俺は例の如く尻餅をつかされた。再会早々頭を下げられるパターンは初めてであったが……。俺は鼓動の早まりを収めながら、困り顔で答えた。


「頭を上げてください」


 その言葉を聞いて顔を上げたハルは、一気に述べ連ねた。


「思い返してみますと不自然なことが多々ありました。ミスト様が畑で村人に宿屋の場所を訪ねましたよね?あの時何故村人は、素直に噴水の広場と言わなかったのか。何故魔力の型取りにあんなにも時間を要したのか。何故宿屋の公共部分の掃除が行き届いてなかったのか。何故炊事場に調理道具や調味料が不十分だったのか――」


 ハルが段々と顔を近付けてくるので、俺は後ろに下がるしかなかった。まるで追い詰められたアニメの悪役のようだ。


「だからといって、なんでハルさんが謝るんですか?」


「信じていなかったのは、私の方でした。尊大な物言いをしてしまい、申し訳ありませんでした」


 本当に真面目を絵に書いたようなやつだな。俺は全く気にしていないというのに。


「本件は本来、治安維持を国王から任されている私達騎士の領分です。詳しく調査して、然るべき処置を取らせていただ――」


 俺は思わず頭をボリボリかきながら言う。


「あーですから!……生真面目すぎるんですっ。そういうことになるから、さっきも手を出さないようにと言ったんです」


「ですがこの村の兵士達は、確実に何かを隠しています。その何かが人々を脅かす種となってはいけないのです」


「全くもって同感です。必ずあとで話しますから、どうか私を信じて静観していてくれませんか?」


「私にできることは何もないのですか……?」


「ありません。……いや……じゃあひとつ頼めますか?」


 俺とハルは再び衛兵の屯所へやって来た。中へ入ると、人が出払っているようで物静かである。受付の事務員に要件を伝えた。事務員は要望には答えられないと突き返してきたが、ハルが粘ってようやくお目当ての人に会えた。その短い赤髪が目立つ人物は身なりを整えながら、奥の部屋から顔を出した。


「お初にお目にかかります。西方軍騎士、衛兵長ムンノットと申します」


「ハルです。襲はレガン・ダ・ワーヴァン。役はついておりません」


「存じ上げております。王都での叙勲式で拝見したことがございますので。あの時は確か流星の騎士様の――」


「ええ、シュートンおじ様の叙勲式ですね。そういえば私も見覚えがあります。確かあの時は髪を伸ばされていたのでは?」


「よく覚えていらっしゃる。私自身もう失念しております。――そちらの方は?」


「騎士見習いミストと、モフモフ専用機のイルーです」


「なんでゃねん!」


 俺はイルーに向けた手を翻してムンノットへ差し出した。


「あなたに用があるのは私です。申し訳ありませんが、ご足労願います。うまくいけば、そんなに時間は取らせません」


 俺達は屯所を出て数分歩いた。ムンノットとハルは騎士同士、仕事の話で盛り上がっている。やはりハルに仲介役を頼んで正解だった。俺達は目的地の村役場に到着した。


「ハルさん、ありがとうございます。あとは話がつくまで時間を潰しておいてくれますか」


 ハルは小さく頷いた。


「それではムンノット様、私はこれで」


「よろしいので?」


 おそらくムンノットは今から何について話し合うのか、おおよその見当がついている。なのでハルがその話し合いに参加しなくて良いのか尋ねたのだ。

 俺は役場の受付に名前を告げ、待ち合わせの部屋まで案内してもらった。そこは八畳ほどの応接室だった。部屋の真ん中にテーブルと、その周辺に長ソファと椅子が二つ並べられている。壁にもたれ掛かる別の椅子には、ドリトンが腰掛けていた。そしてこの部屋にはもう一人、見覚えのある男が待ち構えていた。俺は立ち上がって手を差し伸べてくる、“まつ毛がぱっちりした目鼻立ちのはっきりしたその男”に正直面食らった。


「昨日は名乗り損なった。村長のマギウダだ」


 何を隠そうこの男は、昨夜公衆浴場で俺から全ての服を剥ぎ取り全身を検分した張本人だ。俺は軽い目眩を起こしながら額に手をやった。


「何だ?どこか悪いならまた見てやろうか?」


「結構です……」


 ムンノットとマギウダが簡単に挨拶をし終えてから、俺は一応下座に腰掛けた――この世界にこういう文化があるのかは知らないが……。職員が飲み物をテーブルに置いて部屋から出ていった。それを合図に俺は話し始めた。


「ムンノット衛兵長にわざわざお越しいただいたのは、後で再び同じ話をする時間を節約するためです。()()()()で申し訳ないのですが、休息は少し後まで取っておくようお願いします」


「ほう……。まるで私が今まで何をしていたか、見てきたような物言いだね。ドリトンさんから聞いたかな?騎士見習いミスト殿――」


「……ハルさんもロアさんも、所謂王都のお偉いさんですよね?来村しているのに挨拶もなしとは、規律を重んじる魔道士にあるまじき行為――となれば、顔を出せない状況にあったと考えるのが自然です。それ以上は私の推測ですが……。因みにドリトンさんはこの村の歴史をこそ話していただきましたが、この件一切については何も語っていません。そのこと自体がヒントに他なりませんが」


 俺はドリトンの方を向いた。


「ドリトンさん、こんな機会を作っていただきありがとうございます。もう一つのお願いは滞りありませんでしょうか?」


「はい。準備はできております」


「では後々相互に誤解があってはいけませんので、順を追って話して参ります。私達が当村に訪れる恐らく前日か二日前……いや、もっと前かもしれません――何かしらの問題が発生して、衛兵方はその対応に追われることとなりました。その問題が解決する前に、私達がやってきてしまった……というのがまず始まりでしょうか。その問題はハルさんやロアさんといった、国王に仕える騎士に露呈するとマズイ性質のものでした。そこであなた方は、そのヒントとなる宿屋を偽装することにしたのです。おそらくドリトンさんもそれに加担したのでしょう」


 俺は正面に座るマギウダ村長に向けて、連々と喋り立てた。テーブルの別の一辺に腰掛けたムンノット衛兵長も静かに聞いている。


「ただそれは私達にとっては些末な問題に他なりません。しばらく使われてないカビ臭い宿で、たかだかサービスが少し悪くなる程度なのですから……。本来なら、一泊して早々にこの村を立ち去って終わりでした。私も宿のすり替えに気付きましたが、目をつぶるつもりでした。しかし私にもあなた方にも、予想外のことが知らされました。それによって私は、この場に座ることを決めたのです。あなた方にとっての予想外は、赫髑王(かくどくおう)が倒されたこと。私にとっての予想外は波の対策のため王国軍、並びにハルさんのような騎士がこの地へ向かっているということです――」

ご愛読ありがとうございます!

なんとブックマークに追加すると2PTが!

下の★↓の数×2PTが!

評価ポイントとして入るようです!!


そして評価ポイントが高いほどランキングに入って

皆さんに読んでいただけるということで……ぜんぜん知らなかった(;・∀・)


どうかブックマークと★評価よろしくお願いします!!!

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