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ホイネ村 Part5

 苦労して起こしたロアと共に階段を降りると、ハルがコップにお茶を注いでいてくれていた。食台を彩る皿の上には、昨日とは打って変わって味の整った料理が並んでいる。


「美味い」


 焼き魚は昨日と同じ魚だが、塩っ辛さが抜けて丁度よい。トマトスープのような少し酸味のきいた野菜スープの中には、お麩のようになったパンが入っている。きっと昨日の煎餅のようなパンだろう。他にはたっぷりの目玉焼きと加工肉、塩もみした葉物野菜や豆と海藻の煮付けは実にご飯が欲しくなる。しかし全体的に薄味に調整されていて、おかずだけでも飽きはこない。


「炊事場をお借りさせていただきました。調理道具とか調味料とかが揃ってなかったのですが、それでも頑張ったんですよ?」


「まさかハルさんが作ったんですか!?これ商売できますよっ!?」


「ふふ、ありがとうございます。イルーにも手伝ってもらいました」


「へへん!料理はぉ手のもんだぃ!」


 俺は美味い美味いと言いながら食べた。大袈裟な話ではなく、二十回は言ったのではないだろうか。朝早く起きて宿の食事を危惧して支度してくれたなんて、ハルは女神か仏様か。感謝の眼差しでハルを見たら目が合った。夜中のベッドでのことを思い出してしまい、思わず目を逸らす。気まずい。


「俺は宿屋の飯でもいいけどな」


 ロアが訳のわからないことを言いながらスープをすする。



 俺達は旅の続きの支度を終えて村を後にする。出る時の手続きはいらないようだが、少し屯所に立ち寄り、昨日と同じ副兵長に簡単に別れの挨拶をした。ドリトンにも一声をと思ったが、また長くなりそうなので市の準備で忙しいだろうと適当に理由をつけて村を離れてしまった。そもそも今日出立することは昨日伝えていたし、問題はないだろう。

 村の南側は牧草地になっていた。家畜を探したが相当遠くの豆粒状態だった。やはり牛や豚に似た動物がいるのか興味があったが、また次の村でお目にかかることとしよう。

 しかし……ドリトンがいないと実に静かだ!


「ぅぉい、ぃいのかょぉ?夜中のこと……」


「ん~気がかりではあるが、他所様の領分に勝手に立ち入るべきではない……と思うぞ?」


 そうだそうだ。今は自分自身のことで手一杯で他人のことを気にしてる余裕なんてないんだ。そうだダースラー・ドットに着いたらまず職を探そう。しばらくはまともな生活は期待できなさそうだ。まあそれは二の次。金が貯まったら住居だな。それまでは野宿でも致し方ない。少なくともイルーがいれば追い剥ぎにあうこともないだろうし……。少しでもこの世界の情報を手に入れて、少しでもまともな職にありつこう!そうしよう!


「……だけどょ、見ただろぅ?ぁぃつ、すげぇ悲しそぅな目ぇしてたぜ?……殺してくれなんて……よっぽど酷ぃ仕打ちを受けてるに違ぃねぇだろっ?」


「……そんなに言うなら、俺が寝てる間にでも助けに行けば良かっただろっ?」


 イルーの進む速さが遅くなった。俺は気付いて足を止め、振り向いた。


「……言ってなかったな……俺……ぉまぇの側から離れられなぃんだょ……」


「え……?」


「そりゃぁ、少しはな……十メートル?二十メートル?ぐらぃか……?それくらぃなら離れてられるんだけどょ。……それ以上離れょぅとすると、体が言ぅこときかなくなるんだ」


「そうだったのか……」


 俺は肩を落とした。自分の行きたい所に行けない。それはさぞ退屈だし不自由だろう。俺と離れたくても離れられない。それはさぞ窮屈で気が磨り減ることだろう。今度からはもっとイルーの意見を聞いてやらなければ……。


「ぁ……わ、悪ぃ!忘れてくれっ!ぁ、あはは……我が儘言っちゃぃけねぇょな!ミストだけの問題じゃねぇもんなっ!……ごめんな!」


 イルーは俺を追い越して先に行くハルとロアの元に飛んでいった。俺も渋々駆け足で追いついた。


「――結局、衛兵長には会えませんでしたね」


「そうだなあ、近隣集落との連携の話をもっと詰めておきたかったんだけどなぁ。まあ仕方ない。俺達もうかうかしてると波に飲み込まれちまうからな」


「な……なぁ!そぅぃえば、その波って何なんだょ?昨日も話してたょなぁ?」


「ああ、そうか……どっから話せば良いかな?魔王が拠点を築くと、そこから魔物が出てきたり、周辺の土地から魔物が集まってきたりするんだ。だから拠点の周辺の魔物は相当な数になる」


「簡単に申しますと、その魔王の周りに集まっていた魔物が、魔王消滅によって散り散りになろうと一斉に拡散する現象が波です」


「ここいらは比較的魔王の支配地域に近い土地だからそれだけ多くの魔物が一度に訪れる可能性が高いんだ」


「魔王の拠点を中心に放射状に広がるとして、遠くなればなるほど密度が薄くなるということなんですが……伝わりますでしょうか?」


 いや、普通にわかる。早い者勝ちのバーゲンセールでワゴンの近くで人がごった返すのと同じだろ!?最後の一個がなくなった直後だってワゴンの近くは人集りだ。


「それじゃあ、ホイネ村はひとたまりもないじゃないですか!?」


「ですから、国が主導となって軍の派遣を行っています。あと数日もすればホイネ村周辺も駐軍地になります」


「昨日俺が衛兵の屯所に残ったのもその打ち合わせだ。事前情報があるかないかで大分違うだろう?」


「軍が……」


「もちろん、軍だけではなく私達のような襲派に属する魔道士も派遣されます。魔道士の数は限られていますから。国難において軍だの襲派だのの垣根は取っ払われるのです」


 俺はちょっと考えて背筋を凍らせた。歩を止めて思考する必要に迫られた。


「……どぅしたんだょ?ハル達行っちまうぞ?」


「イルー……マズいかもしれない」


「ぁん?」


「わからないか?」


 俺は順を追ってイルーに説明した。イルーの顔が一気に青ざめていく。そんな俺達に気付いたロアが振り向きざま問いかける。


「おーい!……どうかしたのか?」


 俺は今岐路に立たされている。これは受け身では解決できない問題だ。一歩を踏み出すかどうかだ。俺の杞憂かもしれない。ハルとロアに迷惑を掛けるかもしれない。二人だけではなく、大勢に迷惑を掛けるかもしれない。

 気付かないふりだってできる。厄介事は御免だ。他人の不幸をいちいち気に留めていたらきりがないじゃないか。俺はハルとロアとイルーと三人と一匹で陽気なバカンスと洒落込みたいんだ。あの()は殺してと言った。そう確かに言ったんだ。死にたがっていた。


――お前も死にたがってたけどな。


 俺は自分にそう言われた気がした。


「私はホイネ村に戻ります!」


 イルーの顔が明るくなった。俺は二人に背を向けてその一歩を踏み出した。


「ちょっと、ちょっと、待てって。一体どうした?」


 ロアが急いで俺の前に立ちふさがる。俺は気にせず押し通る。


「お待ちを」


 ハルが剣に手を添えながら告げる。


「私達も傀儡や銅像ではありません。道理があればお力添えできることもありますでしょう。ここは胸襟を開いて話し合いましょう」


「……」


「訳を」


「今は話せません」


「私達が信じられませんか?」


 そりゃあ出会ってまだ二日しか経ってない。そんなこと言われても返答に困る。


「……いいえ、私はハルさんもロアさんも信用しています。ただ、だからこそこの一件には手を出さないでほしいのです」


「それは一体……?」


 俺は無言で歩を進めた。

 やってやる。俺は既に死を決意した男だぞ!?何をためらうことがある?何を恐れることがある?なんだってやってやる!あの()()()()()を助ける。


「なぁ、いいのか?」


「……その気になれば、いつでも還せます」

ご愛読ありがとうございます。ロアの外見的イメージは、映画ロー○オブザリングのエルフ役で有名なオーラン○・ブルーム様です。筆者の恋愛対象は女性のみですが、それでも息を呑んでしまう美しさ……。尊い……。


追記

ご愛読ありがとうございます!

なんとブックマークに追加すると2PTが!

下の★↓の数×2PTが!

評価ポイントとして入るようです!!


そして評価ポイントが高いほどランキングに入って

皆さんに読んでいただけるということで……ぜんぜん知らなかった(;・∀・)


どうかブックマークと★評価よろしくお願いします!!!

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