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ホイネ村 Part1

 ドリトンは大袈裟な身振り手振りを交えて、言葉の抑揚巧みに一気にまくし立てた。良く口が回る男だ。口から先に生まれるとは、この男のためにある言葉だな。イルーはひとり礼賛されなかったことに文句を垂れている。一転、べた褒めされたハルは口が緩んでいる。


「これもください」


「いや、ちょっと待って!財布の紐も緩んでますよ!?しかも、これ“も”って何ですか!?これ“も”って!……イルー!鑑定っ!」


 ハルがさっきこの男から買ったという陶器の置物。それをイルーに鑑定スキルで精査してもらった。案の定、何のステータス効果もない。ただ重いだけである。渋るドリトンと交渉の末、ポーション等の消耗品と交換してもらった。数々の訪問販売を退けた俺を舐めるな。ハルめ。あんなトンデモ能力持っててめちゃ強でしっかり者なのに、褒め殺しには弱いなんて意外だ。


「――それで、ハル。魔物を呼び寄せた積み荷の確認は済んでるんだろうなぁ?そう何度も魔物に襲われたら敵わないぞぉ?」


 俺達の後ろで腕を組みながら見ていたのはロアである。呆れ顔を隠すことなく口を挟んだ。ハルは馬車に視線を向けながらそれに答える。


「ええ、それでしたら済ませてあります。()()()程ある“逢魔石”(おうまがいし)が原因でした」


「実は“魔封じの鱗粉”を切らしてしまいまして……ハル様がお持ちでなかったら、どうなっていたか……」


 ドリトンが腕で顔を覆い、大袈裟に泣く真似をしながら続けた。いちいち騒がしい男だ。


「まさかハル、持ってるのか!?」


「はい。既に逢魔石に使用してあります」


「ハル様の用意周到さに命拾いをした所存です。地にいて乱を忘れず、備えあれば憂いなしでございます!脱帽の限りであります!」


 ドリトンは地面に片膝をついて声を張り上げた。俺の色眼鏡のせいなのか、どこか芝居じみている。


「はぁ……そりゃあ恐れ入るぜ……じゃあ既に逢魔石の効力は失われているってことだな?」


「その通りです」


 魔物を呼び寄せてしまう逢魔石と、その効果を封じる“魔封じの鱗粉”か……。ゲームなら“だいじなもの”のインベントリに入る奴だな……。


「しかし、ドリトンさん。大層な品物を扱っているな。巨鳥瓜程の大きさなら、結構な値が付くだろう」


「ご洞察に感服致します。あの鉱石は一攫千金を目論む賊が北の辺境の地、ネリャモアン山脈の山から降ろしたものです。しかし麓の村に着くまでに仲違いやら魔物に襲われるやら紆余曲折あり、賊の数は大分少なくなっていたようなのです。想定以上の日にちが経ってしまっていたのでしょう。賊は持て余した逢魔石を村で手放してしまったのです。賊が施した“魔封じ”の効果が切れてしまえば、村はひとたまりもありません。そのような折、たまたま近隣の町に滞在していた私の元へ話しが舞い込み、渡りに船と買い取ることにしたのです」


 ……悪いが、胡散臭いと思ってしまうのは俺だけだろうか?


「さぁ、ポカ達の足休めも済みました。出発いたしましょう。御一行様も、本日はあちらのホイネ村でご宿泊でございますね?」


「そうですね。その先の集落まで行くには時が経ちすぎました」


「因みに今までホイネ村にお越しになったことはございますか?」


「いいえ、初めてです」


「それでしたら~。おすすめの民宿までご案内させていただきます!私ドリトンと古くから付き合いのある宿屋でして、少しばかり作りが古いですが~。趣のある暖炉がございます!主人も大変愛想の良い御仁で信用がおけますよ。勿論、存分に勉強させてもらいます」


 俺は熱心に聞き入るハルの両耳を塞いでやった。



 太陽が傾いてきた頃、周りに畑が見えてきた。さっきまでずっと喋り続けていたドリトンも、流石にネタが尽きたのか大人しくなった。ロアはそれを待っていたかのようにハルに何か耳打ちをする。そうかと思えば歩くペースを落として、二人で真剣な話をし始めた。その様子を見ていた俺も気になり、ドリトンから距離を取って二人の会話に耳をそばだてるのだった。


「……もしやと思ってな」


「ええ、恐らく違うと思います。()だとしたら早すぎますし、先程のドリトンさんの話で私は整合性が取れていると思います」


「そうだよな。純粋に魔物が来た方角には山脈がある。大きく迂回してきたとしても、俺達を追い越していくと考えるには無理があるよな」


「推測ですが、もともと西の山をねぐらにしていた()()()と考えるのが妥当でしょう。あの種類の魔物は人知れず、山で大きくなると聞いたことがあります」


 どうやら魔物がどこから来たか議論しているようだ。波というのがわからないが、きっと重要なことなのだろう。

 しかし俺にとっての重要なことは、ドリトンである――。


「しっかり搾り取られないようにしないとな……」


「ん?なんだ?ドリトンにぉ金を取られなぃか心配してるのかょ?」


 イルーがドリトンからもらった果物を頬張りながら言った。


「そんなに悪ぃ奴じゃなさそぅだし、気にすることねぇんじゃねぇ?用心に越したことはねぇけどさっ♪」


 こいつ……さっきまで文句垂れてたのに、チョロすぎるだろ!?


 畑一面には背の低い小さな葉の農作物が広がっている。地平線から上半分の真っ赤な空とは対象的に、葉の色は濃い緑になっている。幾十と連なる畝の影は長く伸びて、夜の暗さを落としていた。俺はその影の端で帰り支度をしている村人に挨拶をした。やっと出会えた“第一村人”だ。


「ホイネ村で一番安い宿屋を教えてくれませんか?」


「あんれ?おー、旅人さんかね。一番安いも何も、宿屋は一軒しかねぇぞ?」


 ドリトンの野郎、紹介料いくら料金に上乗せする気だったんだ!?


「こんな小さな村に、宿屋が二個も三個も要る訳ねぇべさ!」


 俺は宿屋の詳しい場所を聞こうとした。しかしあっちを曲がって行くだの、どこどこよりどこそこから行くと良いとか、あーでもないこーでもないと話の要領が得ない。バジさん家というのが目印という情報だけ心に留め、ドリトンの策略から守ってくれたこの恩人に丁重にお礼を告げて、心ばかりのチップを払った。


 次第に建物が増えて町並みが見えてくる。視界に入る村人の数が多くなってきた。異世界にも、これだけの人々の生活があると思うと安心する。ドリトンは村人のひとりに呼び止められたのを機に、村人達に囲まれてしまった。話術の達者なドリトンは、ある意味芸人のような人気があるのだろう。ドリトンは馬車の上で立ち上がり、落語か漫談かという調子で、さっきの魔物騒動の話を村人達に披露した。脚色されたせいで、俺達の格好良さが二割増しで村人達に広まってしまった。


「――斯くして、栄えある王都から馳せ参じた勇猛な三名の騎士・魔道士は、山ほどあろう巨大な魔物を討ち取ったのだった!」


 よくもまあ即興で小噺を喋れるものだ……と俺は感心を通り越して呆れていた。そんな俺の横でロアが「上手いもんだなぁ」と称賛の声を上げる。イルーは自分の出番がないことに、またブツブツと文句を垂れていた。しかし今では村の子供達に見つかってしまい、囲まれてすっかりチヤホヤされている。その向こうでは、ハルが目を輝かせてドリトンに盛大な拍手を送っていた――まるで別の誰かの冒険譚を聞くかのように。

 ご愛読ありがとうございます。ホイネ村編開始です。ひとつのウィークポイントになると思います。筆者の表現力不足で話が伝わらない……!なんてことを危惧しております。なんとか連載を追っていただけると幸いです。

 わかりずらいよ!というような事がありましたら、直接ご連絡頂けますとお答えできます。ご容赦お願いします。m(_ _)m


追記

ご愛読ありがとうございます!

なんとブックマークに追加すると2PTが!

下の★↓の数×2PTが!

評価ポイントとして入るようです!!


そして評価ポイントが高いほどランキングに入って

皆さんに読んでいただけるということで……ぜんぜん知らなかった(;・∀・)


どうかブックマークと★評価よろしくお願いします!!!

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