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6−6 故郷『フロン』

 『フロン』で降りた乗客は私を入れて20人程しかいなかった。それだけこの町は田舎なのかもしれない。

駅舎を出て外に出ると、舗装もされていない道に閑散とした光景が広がっている。駅の側だと言うのに、お店の数は20件ほどしかない。八百屋さんやお肉屋さん…生活用品を扱っているお店に靴屋さんや洋品店…そしてこの町にたった1件だけの本屋さん。学園がある『セントラルシティ』とは雲泥の差だった。通りにはほんの数名の人が歩いているだけだった。


「久しぶりに帰ってきたのね…」


ポツリと呟き、トランクケースを引きずりながら駅舎の近くにある辻馬車乗り場を目指して歩いていると向かい側から帽子をかぶり、リヤカーを引いたおばさんが歩いてくるのが見えた。


「まぁ!ロザリーちゃんじゃないのっ!」


「お久しぶりです、マーヤさん」


このおばあさんは家の近所に住むマーヤおばさんだ。


「帰ってきたのね…まぁ〜ロザリーちゃんは元々綺麗だったけど…都会に行ったからかしら…ますます綺麗になって帰ってきて…」


「そんな事ないですよ。普段着はここで暮らしていた時と何も変わっていませんから」


「そうかしら?でもやっぱり変わったわよ。うん、本当に…ますますお母さんに似てきたわね〜。ロザリーちゃんのお母さんは本当に綺麗な人だったから…。ところでお父さんはお迎えに来ていないの?」


「はい。突然帰省することが決まったので、父には連絡を入れていません」


「そうよね…都会では『電話』っていうものがあるみたいだけど…ここはまだまだ田舎だから電報ぐらいしか打てないものね…あ、ごめんね。引き止めてしまったわね」


「いいえ、それでは失礼します」


「ええ、それじゃあね」


私は頭を下げると、再び辻馬車乗り場を目指した―。




****



ガラガラガラガラ…


舗装されていないデコボコ道をあまり乗り心地に良くない馬車に揺られながら私は外の景色を眺めていた。ほんの数ヶ月ぶりに目にする景色はとても懐かしく感じる。


「フフフ…お父さんたち、私が帰ってきたら驚くかしら…」


その光景を想像するだけで笑みが浮かぶ。



 そして空が夕暮れ色に染まる頃…懐かしい村が見えてきた。


「帰ってきたんだわ…」


オレンジ色の空には集落がまるでシルエットのように浮かび上がっていた―。




「どうもありがとうございました」


 トランクケースを御者の男性に降ろしてもらい、馬車代として700ダルク支払うと馬車は走り去って行くのを見届けると庭の門をくぐり抜けて、改めて懐かしい我が家を見上げた。


 2階建ての木造の家はこの集落の中では一番大きい。何故なら父は村長を努めているからだ。


「お父さんたち、驚くかしら…」


トランクケースを握りしめると私は扉をノックした―。




 

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