6−3 迎えの馬車
翌日午前10時―
2つ分のトランクケースを持って、私は寮の外で迎えの馬車が来るのを待っていた。今日はノーラさんが迎えに来てくれる事になっている。
平民学生たちは皆帰省してしまっているので、迎えの馬車を待っているのは私1人だけだった。
「ハァ〜…」
白い息を吐きながら馬車を待っていると、こちらへ向かって近付いてくる人がいる事に気付いた。
「あら?あの方は…え?フランシスカ様?」
「ロザリー!」
フランシスカ様は手を振ると駆け足で私の所へやってきた。
「どうしたのですか?フランシスカ様」
私も荷物を置いてフランシスカ様に駆け寄ると尋ねた。
「ええ、この長期休暇ではロザリーも帰省すると聞いたの。だから少しの間お別れになるから挨拶に来たのよ。何時に出るかは分からなかったから、早目に来たのだけど…会えて良かったわ」
フランシスカ様は笑みを浮かべた。
「ありがとうございます…わざわざいらして頂けるなんて…」
「いいのよ。貴女の方から私のいる寮へ来れば、何かと角が立つだろうから」
「フランシスカ様はいつ出発されるのですか?」
「私は11時に出発なのだけど…正直言って気が重いわ。だってレナートと一緒に帰省しなければならないし…クリスマスパーティーだって彼をパートナーにしなければならないのよ…」
「フランシスカ様…」
以前の私ならフランシスカ様が羨ましいと思ったかもしれない。けれどもあの一件でレナート様に冷たい態度を取られてからは、私の考えも変わった。恋心は消え、今では冷静にフランシスカ様からレナート様の話を聞けるようになっていた。
その時―。
「フランシスカーッ!」
遠くでフランシスカ様の名を呼ぶ声が聞こえた。するとこちらへ向かって駆け寄ってくるレナート様の姿が目に写った。
「レナート…」
フランシスカ様は眉を潜めて、レナート様の名を呟いた。レナート様はフランシスカ様の元にやってくると息を切らせながら言った。
「フランシスカ…どうしてこんな所に来ていたんだい?随分探したよ。後1時間で出発するって言うのに…」
そしてチラリと私を見た。その目は…何か言いたげだった。ひょっとするとレナート様は私がフランシスカ様をここへ呼んだと思っているのだろうか?
するとやはり、レナート様は私に尋ねてきた。
「ロザリー。もしかして君が…」
するとフランシスカ様がイライラした様子で言った。
「いい加減にやめて頂戴、レナートッ!私が勝手にロザリーの所へ来たのよ。もしこれ以上ロザリーを責めるなら…私はもう二度と貴方と口をきかないから!」
「あ…ご、ごめん。フランシスカ…」
レナート様が申し訳無さげにフランシスカ様に謝ったその時―。
ガラガラと音を立てて馬車がこちらへ向かって近付いてきた。馬車を引く馬は美しい毛並みの白馬で、黒い車体に金の車輪と装飾が施された、それは人目を引くような馬車だった。
「まぁ…!なんて立派な馬車なのかしら!」
フランシスカ様は目を見張った。
「本当だ…」
言いながらレナート様はチラリと私を見た。恐らくあの馬車は私を迎えに来た馬車である事にレナート様は気付いたのだろう。
そして馬車はどんどん近付いてくると、私達の側で停車した。
「え?」
驚くフランシスカ様の前で馬車は止まると扉が開き、ノーラさんが降りてきた。
「お待たせ致しました、ロザリー様」
「えっ?!ロザリーの迎えですって?!」
私の事情を知らないフランシスカ様は驚いた様子で私を振り返った。
「はい、私はロザリー様の迎えに参りましたノーラと申します。さて、では参りましょうか?お荷物はそれだけですか?」
「はい、これだけです」
私は足元に置かれた2つのトランクケースを見せた。
「では早速参りましょう」
「はい」
そしてフランシスカ様を見た。
「ロザリー…一体どういう事なの…?」
フランシスカ様は私に尋ねてきた。
「冬季休暇から戻りましたら事情をお話します」
今はノーラさんの手前、話をするわけにはいかなかった。
「わ、分かったわ…その代わり、戻ってきたら必ず教えてね?」
「はい、分かりました。レナート様もお元気で」
私の言葉に頷くレナート様。
そして私とノーラさんが馬車に乗り込むと、再び馬車は走り出した―。




