5-6 複雑な思い
「それにしても凄い方ね…。私としてはありがたい限りだけど、ここにある花を半分も購入して下さるなんて。着ていた服に言葉遣い…とても高貴な物を感じたわ。それだけじゃないわ。このホテルは世界各国の王族の方々が利用される一流ホテルなのよ。私達庶民にはとても手の届かないホテルなのよ」
カトリーヌさんは興奮した様子でカードを眺めている。
「…」
私はそんなカトリーヌさんを黙って見つめていた。
カトリーヌさんが大物のお客だと喜んでいるのとは対照的に、私は絶望的な気持ちで一杯だった。ユーグ様がここに来ていた…と言う事は絶対に何かしら私の事に関して報告を受け、それで様子を見に来たに違いない。そしてわざわこの店に来店し、私を呼び出す事にしたのだろう。
「どうかしたの?ロザリー」
私の様子がおかしい事に気付いたのか、カトリーヌさんが声を掛けて来た。
「い、いえ。大丈夫です」
「そう?ならいいけど…。それじゃ早速だけどお花を集めるのを手伝ってくれる?バケツに入っている花の本数を数えて、半分抜き取ってくれるかしら。丁度半分に分ける事が出来ないなら1本多く先程のお客様にお渡してね」
「はい、分りました」
「あら?そう言えば…あのお客様…何て名前なのかしら?」
「オズワルド・ヴェルデ・ユーグ様です」
私が名前を答えると、カトリーヌさんは驚いた顔を見せた。
「あら?ひょっとしてロザリーは名前を伺っていたの?」
「は、はい。そうです。お店を尋ねて来られた時、名乗られたのです」
冷や冷やしながら私は答えた。
「そうなのね。でもミドルネームまでお持ちだなんて…やはり相当地位の高いお方なのでしょうね」
カトリーヌさんはウキウキしながら話している。けれども…私はとてもそんな気持ちにはなれなかった。
本来であれば学園を卒業するまでは会いたくない方だったのに…私が今レナート様の事でトラブルを抱えているのを知られて…様子を見に来たのだろうか?でもレナート様の事だけは知られてはならない。
私は様々な思いを抱えながら…ユーグ様にお届けする花をバケツから抜き取っていった―。
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「ロザリー。大丈夫?凄いお花の量だけど…」
カトリーヌさんが心配そうに声を掛けて来た。足元には山積みになった花束が置かれている。
「はい。台車に乗せて引っ張っていけば運べますから」
「そう…?悪いわね。私も運ぶのを手伝いたいけれどもお店を閉める事が出来ないから…」
カトリーヌさんが申し訳なさ気にしている。
「いえ、本当に大丈夫です。配達もお花屋さんの大切なお仕事ですから。それでは行ってきます」
「ええ、行ってらっしゃい」
こうして私はカトリーヌさんに見送られ、ユーグ様の滞在先のホテルへ台車を引いて向かった―。




