5−1 心に決めたこと
結局、あの後私は風邪をこじらせてしまい5日間寝込んでしまう事になってしまった。寮母さんのはからいで、同室のアニータに風邪をうつしていけないと言う事で空き部屋に入れてもらい、そこで療養生活を送った。
食事は寮母さんが運んで来れた。アニータやアリエル、サリーが心配してくれて毎日少しの時間だけ、面会に来てくれた。高熱が続いて、具合の悪い日が続いたけれども、その反面、私は少し安心していた。何故なら教室でレナート様に会わなくてすむから。冷たい視線で見られるのは流石に耐え難かったから―。
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金曜日の12時―
「もうすっかり良くなったようね」
食事を運んできてくれた寮母さんが私に言った。
「はい。何から何までお世話なりました。もう今日から元の部屋に戻れます」
「そうね。また週末だから寮生たちは皆実家に帰ってしまうけどね。やっぱり貴女は今回も実家に帰らないのでしょう?」
「はい、明日こそアルバイトに行くつもりですから」
「そうなのね?でも大丈夫?」
「もう大丈夫です。それに先週はお休みしてアルバイト先にご迷惑を掛けてしまいましたから…今回はちゃんと出勤します」
「分かったわ。…あまり無理しないようにね?」
「はい、分かりました」
そしてこの日の夕方…アニータが帰省した後、私は自分の部屋へと戻った―。
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翌朝―
すっかり体調が良くなった私はアルバイトへ行く準備をしていた。アルバイト先で着る洋服とエプロンをカバンに入れて準備をしていると、9時半になっていた。
先週はお休みして迷惑を掛けてしまったので、今日は早めに出かけることにしよう。
カバンを持って部屋の戸締まりをすると帽子をかぶり、私は自室を後にした―。
外は今日も良い天気だった。美しく舗装された石畳の町を歩き、花屋を目指す。
その時―。
「あ…」
前方からレナート様が人混みに紛れて1人でこちらに向かって歩いてくる姿が目に入った。
ど、どうしよう…。
けれど、幸いな事にまだ私の姿に気付いていない。慌てて帽子を目深にかぶり、反対側の道に移動し…安堵のため息を付いた。
「驚いたわ…まさかこんな朝早い時間にレナート様に会うなんて…」
そしてそっと反対側の歩道を見ると、レナート様が学院の方へ向かって歩いていく後姿が目に入った。
きっと…これから学院へ戻るのだろう。
もう私はレナート様への恋心を捨てる事にした。ここ5日間、熱で寝込んでいる時に決めた事だった。
恋心を捨ててしまえば、教室で冷たい視線で見られようとも然程心が傷つけられることは無いだろうから…。
さよなら。私の初恋…。
私はレナート様の後ろ姿を見ながら心の中で呟いた―




