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4−8 風邪を引いた私

「あ…こ、こんばんは。フランシスカ様。…レナート様…」


レナート様はガス灯の明かりを背に立っているので、その表情はうかがえなかった。


「こんな処で一体何をしていたの?もうすぐ19時になるのよ?」


「19時…?」


フランシスカ様の言葉に驚いた。まさかそんなに時間が経過していたなんて…。

9月とは言え、夜の風は冷たい。道理で私の身体が冷え切っていたはずだ。


「ロザリー?どうしたの?何だか顔色が悪いわよ?」


フランシスカ様は私に近付いてくるとそっと右手に触れて来た。


「やだっ!こんなに冷えて…まるで氷のようじゃないのっ!もしかして今までずっと外にいたのっ?!」


その様子は本当に私の事を心配しているように見えた。


こんな身分の高い伯爵令嬢のフランシスカ様に、たかだか平民の私が心配して貰えるなんて…。


一方のレナート様は先程から無言でこちらを見つめている。その表情からは…何も読み取れなかった。


「あ、あの…今夜は夜空がとても美しかったので…外で時間が経つのも忘れて眺めていたんです。ご心配おかけしました。それでは私…これで失礼しますね」


通り過ぎようとすると、フランシスカ様に呼び止められた。


「待って!ロザリー。何だか足元もふらついているし…心配だわ。ついて行ってあげる」


その言葉にレナート様が反応した。駄目だ…今そんな事をしてもらえば私はますます…レナート様から不評を買ってしまうかもしれない…っ!


「いえ、大丈夫です。1人で帰れます。それに…私と一緒に歩いている所を他の方達に見られたら、フランシスカ様の評判を落としかねないので」


それだけじゃなかった。まるでお姫様のような素敵なドレスを着たフランシスカ様の側で粗末な服を着た私と歩いて恥をかかせたくなかった。


「けど…」


「本当に平気です。心配して下さってありがとうございます」


頭を下げると、私は足早にその場を立ち去った。…結局、レナート様からは一言も声を掛けられる事は無かった。


それが…無性に悲しかった―。



 そしてその夜…再び私は誰もいない寂しい寮でベッドの中に潜り込み、泣きながら眠りについた―。




****


 翌朝―


「今朝は大丈夫そうね…」


鏡を覗き込みながら自分の姿を確認する。


「頭が痛いわ…」


ズキズキする頭の痛みに加え、寒気がするし、肌が擦れただけで痛みを感じる。

立っているのもやっとだった。


「どうしよう…風邪をひいてしまったのかもしれないわ…」


今日も10時から17時までアルバイトがあるのに、こんな体では歩く事もままならない。


「寮母さんにお薬が無いか聞いてみましょう…」


私はふらつきながら部屋を出ると、寮母さんの部屋を目指した。




 何とか寮母さんの部屋に辿り着くと、扉をノックした。


コンコン


「…」


しかし、中からは何の反応も無い。


「留守かしら…」


もう一度扉をノックしてみる。


コンコン


それでも応答する気配が無い。そして寮母さんの部屋の前のカウンターに『不在中』の紙が貼られてあることに気付いた。


「そ、そんな…」


寮母さんに薬を貰い、出来ることなら花屋に電話を入れて欠勤させて貰えないか連絡を入れさせてもらおうと思っていただけにショックだった。


「も、もう…自分の足で伝えに行くしかないわね…」



覚悟を決めると、廊下の壁を支えに自分の部屋に引き返していった―。








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