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3−16 思うだけなら…

 今日は1日、何事もなく平穏なまま5時限目の授業が終わった。鞄の中に教科書やノートを片付けていると、不意にナタリーに声を掛けられた。


「ねぇ、ロザリー。学園の近くにスイーツショップがオープンしたんですって。実はアリエルとサリーと一緒に行く約束をしているのよ。一緒に行くでしょう?」


ナタリーは目をキラキラさせて私を見ている。


「スイーツショップ…」


行ってみたい…だけど、私はナタリーたちのように裕福ではない。とてもではないがそんなお店に行ける余裕など無かった。


「ごめんなさい、行きたい気持ちは山々だけど…この間お店で怖い目に遭ったばかりだから…今はそんな気分になれなくて…」


本当の事を言えず、嘘をついた。


「そう…でもあんな事があったばかりですものね…ごめんなさい。気付いてあげられなくて」


申し訳なさそうに謝ってくる。私はそんなナタリーの謝罪が辛かった。親友に真実を言えないのがこんなに心苦しくなると思わなかった。


「い、いいのよ。気にしないで。3人で楽しんできてね?」


「ええ…ごめんなさいね。それじゃ…2人が待ってるから先に行くわね」


ナタリーは立ち上がって鞄を持つと言った。


「ええ、行ってらっしゃい」


私は笑顔で手を振ると、ナタリーも笑顔で手を振り、教室を駆け足で出て行った。


「ふぅ…」


今日は寮で宿題と…読書でもして過ごそう。鞄を背負い、教室を出ると私は廊下の端を歩いて昇降口を目指した。この学園の暗黙の了解で平民学生は廊下の端を歩かなければいけないからなのだが…慣れない私は時々うっかり廊下の真ん中を歩きそうになってしまう。


 その時、背後から誰かが歩いてくる気配を感じたので、私はより一層壁際を歩いていると不意に声を掛けられた。


「何もそんなにギリギリまで端に寄って歩くことは無いよ」


「その声は…」


振り向くとやはり声の主はレナート様だった。


「あ…レナート様」


するとレナート様が言った。


「ナタリーは…先に帰ったたんだろう?」


「はい」


「他の友人とスイーツショップに行くんだよね?」


「はい、そうです」


でも、何故そんな事を知っているのだろう?首を傾げてレナート様を見ると、恥ずかしそうに私に言った。


「ごめん…盗み聞きするつもりはなかったんだけど、会話が聞こえて来てしまったんだ…」


「そうなのですね?」


するとレナート様は突然話題を変えてきた。


「ロザリーは何処のクラブにも所属していないの?」


「はい、そうです。クラブ活動もお金がかかりますから」


返事をしながら思った。そう言えば…私が貧しいことを知っているのはレナート様とイアソン王子だなんて…。そして何故かレナート様は私と並んで歩いている。その様子を他の生徒達がチラチラと見ている。…でも見られてそれは当然のことだった。何故なら真っ白な制服を着こなしたレナート様は公爵家の方でイアソン王子の次に爵位が高い方なのだから。それなのに隣を歩く私は…汚れが目立つのを避けたグレーの制服…平民の生徒なのだから。しかもただの平民ではない。とても貧しい出自で絶対に知られてはならない立場の生徒だ。


「レナート様…他の方々の目があるので…あまり私の側に近寄らないほうが…」


するとレナート様は言った。


「ロザリー、この後…時間ある?」


「はい、ありますけど」


「そうか…なら昨日と同じ場所で待ってるから」


「え?」


けれど返事をする前にレナート様は走り去って行ってしまった。


レナート様…。


今日も2人でお話出来るんだ…。そう思うと、再び胸が高鳴った。


身分違いの恋なのは分かっている。


でも…想いを打ち明けなければ…このままレナート様を好きでいてもいいだろうか…?


私は自分自身に問いかけるのだった―。

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