3-5 取り囲まれて
「キャアッ！」
無理矢理店の外に引きずり出された私は勢いよく突き飛ばされ、地面に転んでしまった。
「い、いった…」
地面に倒れ込んだまま、呻くと頭上から声が降って来た。
「全く平民のくせにこの店にやって来るなんて…本当に図々しいわねっ！」
リーダー角とみられる女子学生が腰に手を当てて、私を見下ろしている。
「そうよ！この店はね、全て気品あふれる品物ばかりなのよ！いくら金持ちだからって所詮ただの平民にはここで買い物する資格は無いのよっ！」
「そうだわ…卑しい平民が買い物に来たせいでこの店の空気が汚されてしまったのだから、慰謝料を払って貰おうかしら？ほら、貸しなさいよ！」
1人の女子生徒が私の背負っているリュックをいきなり奪い去った。
「あ！返して下さい！」
起き上がって慌ててリュックを取り返そうとすると、再び強く肩を押されて、転んでしまった。
ドサッ！
そして私が倒れたすきに、彼女たちはリュックを漁って財布を見つけ出してしまった。
「うわ、何よ…この貧乏たらしいい財布は…」
財布を見つけ出した女子生徒が麻布で出来た財布をつまみながら言った。
「随分貧相な財布ね。幾ら入っているのかしら？」
そして財布を開けてしまった。
「お願いです！やめて下さいっ！」
必死で叫ぶ私。だけど、怖くて彼女達には近づけなかった。
…どうしよう。あの財布の中身を見られたら…！
「まあっ！何なの？これは！たったの８00ダルクしか入っていないじゃないの！これじゃ、あの店のハンカチ1枚買う事が出来ないわよ！」
その言葉に羞恥で顔が真赤になる。そう、あの店のハンカチは最低金額でも1000ダルク必要だ。とても私が買えるような店では無かったのだ。それでも800ダルクは私にとって、貴重なお金だった。
「ねぇ…あなた、ひょっとして…庶民のくせに貧しい訳？」
1人の女子学生が意地の悪そうな目で私を見ている。
「そ、それは…」
他の女子学生達も私をあざ笑うかのような目で私を見つめている。
「ほら、本当の事言いなさいよ！何で、貧しい庶民がここにいるのよっ！」
厳しい口調に思わず目を閉じて肩がビクリと跳ねた次の瞬間―。
「君達、何をしているんだい？」
何処かで聞覚えのある声前方から聞こえて、目を開けた。
「あ…イ、イアソン王子…」
女子学生の言葉に顔を上げると、そこにはイアソン王子が1人で立っていた。そして倒れている私を見ると、近付いて来た。
「君…大丈夫？」
「はい、大丈夫です」
声を掛けて来たイアソン王子に返事をする。
「立てるかい？」
王子は手を差し伸べて来たけれども、私はあえて断った。
「大丈夫です…1人で立てますので…」
「え…？」
怪訝そうに私を見るイアソン王子。
本当はとても足が痛かったけれども、無理に立ち上がった。
「ね？立てましたよね？」
痛みを堪えて笑みを浮かべる。
「そうだね…ところでもう一度尋ねるけど、君達は何をしているのかな？どう見ても俺には1人の女子学生をよってたかって虐めているように見えるけど…？」
イアソン王子は再び、私のリュックや財布を持つ女子学生達に尋ねた。その瞳は、何処か非難めいていた―。
