10-11 恐ろしい予感
いきなり肩を抱き寄せられて婚約者と言われて、恥ずかしくて私の顔は真っ赤になってしまった。
「「…」」
そんな私をじっと見つめるイアソン王子とレナート様。一瞬イアソン王子は眉をしかめて私を見ていたけけれども、すぐに視線をレナート様に移すと尋ねた。
「どうだ?これでもレナートは俺がロザリーの恋人だと思うのか?」
「…」
レナート様は無表情で私とルペルト様を無言で交互に見つめていたけれども…やがて口を開いた
「…そうですね。ロザリーのその様子を見る限り、2人の仲を疑う必要はないかも知れないですね」
「ああ、そうだ。分かったらこれ以上ロザリーに言いがかりをつけるな」
イアソン王子は腕組みするとレナート様を睨みつけた。
「ええ、分かりました。でも…イアソン王子はそれでいいのですか?貴方はロザリーのことが好きなのに…あっさり諦めるのですか?」
レナート様はまたしても見当違いのことを言ってくる。
「何?お前…まだそんなふざけたことを言うのか?違うと言ってるだろう?」
けれど、レナート様はイアソン王子の言葉が耳に入ってこないのか呟くように言う。
「だけど、僕は貴方とは違う。例え自分が好きな女性に好きな男性がいたとしても絶対に諦めたりしません。何故なら女性というものは愛するより、愛される方が幸せになるに決まっているのですから」
レナート様の目には…狂気が宿っているように見えた。
その迫力に私もイアソン王子も…そしてルペルト様も言葉を無くす。
「…もう今日はフランシスカはここには現れないでしょうね…。仕方ないので僕はもう行くことにします。どうもお邪魔致しました」
レナート様は頭を下げると、私達に背を向けて去っていった―。
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「「「…」」」
少しの間、私達の間には沈黙が流れた…。
そして私の身体は震えが止まらない。
レナート様は…もう完全に頭がおかしくなってしまったに違いない…。
「…一体…何なんだ?あいつは…」
イアソン王子が小さくなっていくレナート様の背中を見ながら呟く。
「大丈夫?ロザリー」
私の肩を抱きかかえていたルペルト様が尋ねてくる。何故ルペルト様がここにいるのか疑問に思ったけれども、今はそれどころでは無かった。
「ど、どうしよう…」
「ロザリー?」
「どうしたんだ?ロザリー」
ルペルト様とレナート様が尋ねてきた。
「どうしましょう!このままでは…フランシスカ様が危険ですっ!もしレナート様に見つかれば、どんな目に遭わされるか…!」
私は2人に必死で訴えた。
「そんな、どんな目に遭わされるかなんて…少し大げさじゃないのか?大体フランシスカはレナートがあれ程恋い焦がれている相手だぞ?そんな相手に何かするとは思えないがな」
「…」
イアソン王子は取り合ってくれようとはしないけれども、ルペルト様は真剣な顔で私の話を聞いている。
イアソン王子は…何も知らないからそんな楽観的な事を言っていられるのだ。
だってレナート様がフランシスカ様に向ける目は…ダミアンが私に向けてきたあの目と同じだったのだから―。




