10-8 断れない立場
「それじゃ、明日9時に貴女の住む寮に行くから出口で待っていてね?」
フランシスカ様は笑みを浮かべている。
「はい…分かりました…」
本当は、「嫌です。お断りします」と言いたかった。けれども私とフランシスカ様では身分が違う。
同じ学生ではあるけれど、私とフランシスカ様とでは身分が違う。彼女は侯爵令嬢であり、私はただの平民なのだから。
断れるはずなど無かった。
「よし、話は成立したな。それじゃ…レナートも帰ったことだし…。フランシスカ、お茶でも飲みに行こうか?」
イアソン王子がフランシスカ様に声を掛ける。
「はい、いいですね。あ、そうだわ。ロザリー、貴女もどう?私達と一緒にお茶を飲みに行かない?」
フランシスカ様が私を見た。
「いいえ、せっかくのお誘いですが…私はまだここで写生をしていきたいので遠慮させて頂きます。申し訳ございません」
頭を下げて謝罪した。
「あら?そうなの?なら仕方ないわね…」
フランシス様が残念そうにため息を付いた。
「まぁ、ロザリーがああ言ってるのだから仕方ないだろう?それでは行こうか?」
「ええ、イアソン王子。ロザリー。それでは又明日ね」
「はい、フランシスカ様」
そして2人は仲よさ気に歩き去っていった―。
「ふぅ…」
1人になるとため息をついた。良かった…。やっと1人になることが出来た。
3人で一緒にお茶を飲むなんて…考えただけで胃に穴が開きそうだ。
「それにしても困ったわ…」
ベンチに座ると、思わず頭を抱えてしまった。
イアソン王子の提案で、私は明日フランシスカ様をレナート様から守る?為に一緒に過すことにされてしまったけれども、はっきり言ってそんなことをしても無意味だろう。
レナート様が私を気にして、フランシスカ様に接近するのをやめるとは到底思えない。
逆に私の存在が邪魔だと言われて追い払われてしまう気がする。
考えるだけで胃が痛くなってしまう。
「でもフランシスカ様だって明日になれば私がどれだけ無力な存在か分かるはず…。そうすればきっともう二度と無理なことは言ってこないわよね…」
そうだ、明日になればフランシスカ様もレナート様もきっと理解してくれるだろう。
頼む人選を間違えたということに。
「もう悩んでいても仕方ないわよね…」
ため息をつくと、ベンチから立ち上がった。もう今の私はとてもではないが、写生を楽しめる気分にはなれなかったからだ。
「今夜と明日の朝の食事を買って…寮に戻りましょう」
そして私は重い足取りで公園を後にした。
明日が来なければいいのに…と願いながら―。




