10-6 レナート様の異変
「デートって…フランシスカ。それじゃ僕は一体…」
レナート様がフランシスカ様に尋ねた。
「レナート、貴方は勝手に私とイアソン王子のデートについてきたのよね?そうですよね?イアソン王子」
フランシスカ様は隣に立つイアソン王子を見た。
「確かに俺はフランシスカに誘われた。けれどレナートがついてくるとは思わなかったな」
そして何故かイアソン王子はチラリと私を見た。
「ま、待って下さい。でも僕は昨日からフランシスカと出掛ける約束を…」
言いかけたレナート様にフランシスカ様は追い打ちをかける。
「私は嫌だと言ったでしょう?それなのに今日だって勝手に誘いに来て…。だから私は貴方と一緒にいたくは無かったからイアソン王子に助けを求めに行ったのに…」
「え…?」
フランシスカ様の話に耳を疑った。
そこまで嫌がられているのに、レナート様は強引についてきているとは思いもしなかった。
「大体婚約解消したいと言っているのに、どうしてお願いを聞いてくれないのよ。私はね…レナートなんか大嫌いなのよ!もう、私の目の前から消えてよ!」
フランシスカ様が叫んだ。
「フランシスカ…」
レナート様は青ざめた顔でフランシスカ様を見つめていたけれども…やがてフッと笑った。
「フフフ…相変わらず君は照れ屋だな」
「え?」
その言葉にフランシスカ様の顔が青ざめる。いや、フランシスカ様だけではない。
イアソン王子の顔だって青ざめていたし、恐らく私も顔が青ざめていただろう。
「いいよ、分かったよ。今日のところは帰ってあげるよ。その代わりまた明日誘いにくるからね。それではイアソン王子、フランシスカのことをどうぞよろしくお願いします」
そしてレナート様はイアソン王子に頭を下げてきた。
「お、お前…一体何を言ってるんだ…?」
これには流石のイアソン王子も驚いた顔でレナート様を見つめている。
「いえ?ただフランシスカをお願いしますと頼んでいるだけです。それにロザリー」
「は、はいっ!」
不意に声を掛けられて、驚きのあまり声が上ずってしまった。
「さっきは腕を強く握りしめてごめんね。痛かっただろう?」
「い、いえ…大丈夫…です…」
レナート様の異様な雰囲気が怖くて思わず一歩下がりながら返事をした。
「そう?なら良かった。それじゃ僕は帰るね。失礼します」
レナート様は頭を下げると、踵を返して私達のもとから歩き去って行った。
そして私達は物言わず、レナート様が去っていく姿を見守っていた―。




