10-2 憂鬱な提案
「フフ…良い天気ね」
公園を散策しながら私は写生スポットを探していた。1月の寒い季節ではあったけれども今日は日差しがあって、日向に出ればそれほど寒さを感じさせない。
「どこで写生しようかしら…」
日もさしてベンチもあるような場所が無いか辺りを探し回っていると、前方で賑やかな声が聞こえてきた。
「向こうに何かあるのかしら…?」
好奇心に駆られた私は楽しげな声が聞こえてくる方角を目指して歩き始めた―。
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辿り着いた場所はボート乗り場だった。ボート乗り場には小さなウッドハウスがあり、そこが受付のようになっていた。
受付には看板が建てられており、12月〜2月の間は気温が高い時だけボートに乗れる主旨が記されていた。
「きっと今日は気温が高いから乗ることが出来たのね…」
目の前には大きな池もあるし、池の近くにはベンチもあった。
ここで写生をするのも悪くないかも知れない。
そこで早速私はベンチに座るとスケッチブックを取り出した―。
シャッシャッ
スケッチブックに色鉛筆を走らせていると、不意に声を掛けられた。
「あれ?ひょっとして…ロザリー?」
「え?」
聞き覚えのある声にドキリとして、顔をあげて息を飲んだ。
何故なら私に声を掛けてきたのはレナート様だったからだ。
「あ…レ、レナート様…お、お久しぶりです…」
あれ程好きだったレナート様だったけれど、フランシスカ様の件で散々心を傷つけられてきた私にとって、今のレナート様はトラウマでしかなかった。
思わず引きつった笑顔で挨拶をした。
「久しぶりだね。まさかこんな所で偶然会うとは思わなかったよ」
レナート様はにこやかに話しかけてくるが、私はそれどころでは無かった。レナート様と2人でいると緊張のあまり息苦しくなってくる。
「ここ、座ってもいいかな?」
すると、あろうことかレナート様は私の隣に座っても良いか尋ねてきた。
「あ…は、はい。どうぞ」
相手は公爵家のレナート様だ。当然断ることは出来なかった。私は隅によって場所を空けた。
「ありがとう」
笑みを絶やさずに隣に座ってくるレナート様。
「所でロザリー、さっき絵を描いていたんじゃないの?」
「え、ええ。でも…もう帰ろうかと思っていたのです」
そうだ、もうこのまま帰った方がいいだろう。スケッチブックを閉じて鞄にしまおうとした時、レナート様が声を掛けてきた。
「え?もう帰ってしまうのかい?」
「は、はい…」
伏し目がちに返事をした。
「あの…さ、悪いけど…少し僕の話に付き合って貰えないかな…?」
「え…?」
レナート様の突然の話に、思わず私は目を見開いた―。




