10-1 思いついたこと
翌朝―
部屋で朝食用のパンを食べ終えた私は特にすることも無かったので、ルペルト様から頂いたスケッチブックを眺めていた。
「フフ…本当にルペルト様は絵を描くのがお上手だわ…」
スケッチブックの中の風景画はどれも繊細なタッチで描かれた優しい絵だった。
「結局ルペルト様の事はほとんど知ることが出来なかったわね…」
セカンドネームも、何処から来たのかも、そして年齢も…。
ルペルト様の事はイアソン王子に尋ねれば色々分かるかも知れないけれど、尋ねようとは思わなかった。
何故ならイアソン王子は私がルペルト様のことを聞くのを快く思っていないのは分かりきっていたから。
「きっと、ユーグ様という方がいるのに、私がルペルト様に興味を持つのは良くないことだと思っているのでしょうね…」
じっと絵を見つめていると写生をしに行きたくなってきた。外は良い天気だし、どうせ1人で寮に閉じこもっていても時間を持て余すだけだった。
「写生をしに行きましょう」
思い立った私はすぐに出掛ける準備を始めた―。
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斜め掛けのメッセンジャーバッグを肩から掛け、スケッチブックと12色の色鉛筆をしまうとコートを羽織って早速自室を後にした。
「あら、ロザリーさん。出掛けるのかしら?」
寮母さんの部屋の前を通りかかると声を掛けられた。
「はい、少し出かけてきます。ついでにお昼も食べてこようと思っています」
「そうね。殆どの寮生の子達が戻ってくるのは明日だから、今日も食事が出せないし…外食してきた方が良さそうね」
「はい、では行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そして私は寮母さんに見送られて、寮を後にした―。
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「どこで絵を描こうかしら…」
寮を出て門に向かって歩きながら考えていた。ここ、セントラルシティは都会の町なので、あまり写生に向いている場所は存在しなかった。
「そうだわ、公園に行ってみたらいいかも…」
幸い、リーガル学園の近くには自然溢れる大きな公園がある。私はまだ一度も行ったことは無いけれども公園の敷地には池もあり、ボートに乗ることも出来るらしい。
学園の生徒たちがデートの場所として良くこの公園を利用していると言う話をアニータから聞かされたことがある。
「公園は自然にも溢れていそうだから、そこに写生をしに行きましょう」
そして私は公園に足を向けた。
そこに何が待ち受けているかなど予想もせずに―。




