9-27 帰ってきた私
辻馬車を降りて学園に戻って来た時は18時を少し過ぎていた。
「どうもありがとうございました」
馬車代として500ダルク支払い、馬車を降りると約一月ぶりの寮を見つめた。
「何だかここに戻るのは随分久しぶりに感じるわ…」
白い息を吐きながらポツリと呟いた。寮の窓は真っ暗で、唯一寮母さんの部屋だけがオレンジ色に明るく光っていた。
「良かった…寮母さんはもう戻ってきていたのね」
正直1人きりで寮で過ごすのが怖かったので、例え離れた場所とは言え同じ建物に誰か1人でもいると心細い気持ちは何処かへ飛んでいく。
部屋に戻る前に、まずは寮母さんに挨拶をしていこう…。
私は寮へ足を向けた―。
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寮母さんの部屋の前にやってくると、コンコンとノックしながら声を掛けた。
「こんばんは、寮母さん。ただいま寮に戻ってきました」
するとすぐに扉が開かれ、寮母さんが姿を現した。
「まぁ、ロザリー。実家から帰ってきたのね?お帰りなさい」
寮母さんは私がずっと実家へ帰っていたと思っている。
「はい、本日戻って参りました。またよろしくお願いします」
「ええ、よろしくね。それで寮生たちが揃うまでは食事を出すことは出来ないけれど…」
申し訳なさげに私を見る。
「ええ、大丈夫です。分かっていますから。そう思って食事は買ってきました」
「そう?ならいいけど…」
「はい、それでは失礼します」
寮母さんから暗い廊下を歩く為のカンテラを預かるとお礼を述べて、私は自室へと向かった。
「ただいま…」
鍵を開けて誰もいない部屋に戻るとカンテラの火を部屋に置かれたアルコールランプに灯して回る。
部屋の中がオレンジ色の灯りに満たされ、ようやく人心地がついた。
「ふぅ…」
カーテンを閉め、ライティングデスクに向かうとショルダーバッグの中から駅のパン屋で購入したパンが入った紙袋を取り出した。
袋の中からチーズパンを取り出すと、ゆっくり味わうように食べた。残りのレーズンパンは明日の朝食用だ。
1人、静まり返った部屋で食事をしていると『ヘンデル』での出来事が思い出される。
ルペルト様は…もう自分の居場所へ帰っていったのだろうか…?
「イアソン王子今夜の汽車で帰って来ると仰っていたので、きっと帰られたでしょうね…」
冬期休暇終了まで後残り3日の夜は、こうして静かに過ぎていった―。




