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9-26 『ヘンデル』との別れ

「お世話になりました」


『ヘンデル』の駅に到着し、馬車から降りた私は御者の男性に頭を下げた。


「いいえ、お気をつけてお帰り下さい。ホテルに残されたお荷物は全て寮に届けるように手配しておきますので」


「どうもありがとうございます」


もう一度会釈をすると、私はショルダーバッグだけを持って駅の改札へと向かった。




ホームに行くと既に私が乗る汽車は到着しており車輪から蒸気を吹き出している。その光景を目にした時、私は故郷での出来事をふと思い出してしまった。


私を乗せた汽車を何処までも走って追いかけてきたダミアン…。


あの時、どんな気持ちで汽車を追いかけていたのだろう?そう思うと申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

ダミアンが私のことを姉としてではなく、1人の異性として好きだという気持ちを知った時は本当に驚いた。


けれども私はその気持に答えることは出来ない。


だってダミアンのことはどうして弟としてしか見れないのだから。


「今頃…お父さんやダミアン、フレディはどうしているのかしら…」


思わずポツリと呟いた、その時…。



ボーッ…


汽笛が大きな音を立てて鳴った。汽車の発車時間がやってきたのだ。


「いけない、早く乗らなくちゃ」


そして私は汽車に乗り込んだ―。



 

 イアソン王子が用意してくれた汽車のチケットは今回も特別車両だった。


「イアソン王子…こんなに良くしてくれなくてもいいのに…」


いくらお世話になっても私には何一イアソン王子にお礼を返すことが出来ない。

イアソン王子がただの親切でここまで面倒を見てくれたとはどうしても思えなかった。

やはり、高校卒業後は公国に嫁ぐ私に恩を売ろうとしているのだろう。


「学園に戻ったら、申し訳ないけれどイアソン王子とは距離を取らなくちゃ…」


イアソン王子に恋するフランシスカ様と、レナート様には私がイアソン王子の国にいた事を知られるわけにはいかない。


「もう、お2人は学園に戻っているのかしら…?」


窓の外の景色を見ながらポツリと呟いた―。




****



 6時間という長い時間、汽車に揺られ…ついに私は『セントラルシティ』に到着した。


汽車から降り、駅の構内に入ると大勢の人で溢れかえっていた。


「やっぱりここは相変わらず人が多いわね…」


ほんの一月ぶりなのに、随分懐かしい光景に思える。


今の時刻は16時50分。

もうすぐ日が完全に落ちてしまう。今夜は夕食が出ないので自分で食事の用意をしなくてはならない。

そこで私は駅構内にあるパン屋さんでパンを買って帰ることにした。



「すみません、レーズンパンとチーズパンを下さい」


「はい、全部で500ダルクになります」


「お願いします」


500ダルク支払ってパンを受け取ると、私は学園に帰るために辻馬車乗り場へと足を向けた―。

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