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9-25 もう二度と…

 ガラガラガラ…


音を立てて走る馬車の中で、先程イアソン王子が私に言った言葉が耳について離れない。


『俺はよく知らないが…どうやらルペルトには婚約者がいるらしい』


イアソン王子は私のルペルト様に対する恋心に気付いていたのだ。そしてあの方には婚約者がいる。


「そうよね…。ルペルト様は絶対高位貴族だろうし…婚約者がいてもおかしくないわ…。それにあんなに素敵な方なのだから…」


私はまた失恋してしまったのだ。

けれどレナート様のときとは違って胸の痛みは感じなかった。

とても悲しいことのハズなのに…不思議なことにその話を冷静に受け止めている自分がいる。


そうだ。

私は…どうせ叶うはずの無い恋だからと初めから諦めていたのだ。あの学園に入って、貴族と平民という身分は決して超えることが出来ないということを知った。

貴族の人達は初めから平民には…目をくれないのだ。


だから、私は無意識のうちに心のなかでルペルト様のことを半ば諦めていたのだ。

どうせ叶うはずのない恋なのだから…。


ルペルト様はまた会えるかもしれないようなことを言ってきたけれども…恐らくそれは無いだろう。今回私がここへやってきたのも本当に偶然のことなのだし、それに婚約者がいるのなら…尚更私はもうこれ以上近づいてはいけない。


あらぬ噂を立てられて…ルペルト様に迷惑だけは掛けたくなかったからだ。


「…さようなら。ルペルト様…」


私はポツリと呟き…目を閉じた―。




****


22時半―



ホテルまで戻った私は部屋で荷造りをしていた。そして手を止めると室内を見渡した。


「この部屋とも明日でお別れなのね…」


思えば私は約一月近くもこのホテルにお世話になっていたのだ。


「一月なんて…長いようであっという間なのね」



新学期が始まるのも後3日後。

また、いつもの生活が始まる…。


いつもの?本当にいつもの生活が始まると言えるのだろうか?

私はもうあの家に戻ることは出来ない。ダミアンが私を姉ではなく、1人の異性としてしか見ていなかったことを知ってしまったから。

そして父は私の為を思って、二度と実家には戻らないように言ってきたから。


私は…自分の帰れる場所を失ってしまったのだ。


「…手紙を書くことも…もう出来ないでしょうね…」


ため息をつくと、再び荷造りの準備に取り掛かった。




そして、翌朝…私はイアソン王子が迎えによこしてくれた馬車に乗り、約一月お世話になったホテルと別れを告げて、駅へ向かった―。






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