9-24 イアソン王子の忠告
午後9時―
3人だけの夕食会が終わった。
「ロザリー。エントランスまで送ろう」
イアソン王子が私に言った。
「はい、ありがとうございます」
そして私はルペルト様を見た。彼は…帰らないのだろうか?
すると私の視線に気付いたのかルペルト様が私を振り返った。
「僕はね、ずっとこの城に滞在していたんだよ」
「え?そうだったのですか?」
まさか、ルペルト様がこの城にずっといたなんて…。それでは私もお城でお世話になっていれば…もっと早く知り合えたのだろうか?
思わずルペルト様をじっと見つめた時に、目の前にイアソン王子が現れた。
「何をしているんだ?ロザリー。行くぞ」
「は、はい」
とっさに返事をし、席を立つとルペルト様も席を立った。
「それじゃ僕もお見送りに…」
「ルペルトは客人だから、見送らなくて大丈夫だ」
イアソン王子が制した。
「あ…そ、そうですね。ではロザリーとはここでお別れですね。それじゃ…元気でね?」
ルペルト様は私を見て笑みを浮かべる。
「は、はい…ルペルト様も…お元気で」
ズキリと痛む胸の内を隠して、私は挨拶を返した。
「よし、それじゃ行こう」
「はい…」
そして私はイアソン王子に連れられて、エントランスに向かった―。
「…」
長い廊下を私の前に立って無言で歩くイアソン王子。気の所為か、その背中は少し不機嫌に見える。
何故だろう?私は…何かイアソン王子の気に障るような事をしてしまっただろうか…。
結局、互いに無言のままエントランスに着いてしまった。
ドアマンが大きな扉を開けてくれると、眼前に広がる広大な庭…。そして正面には王宮の馬車が既に待機していた。
「彼女をホテルまで送ってやってくれ」
イアソン王子は御者の男性に命じると、次に私を見た。
「ロザリー」
「はい」
「明日は10時に迎えの馬車をホテルに出すから、それに乗って駅に向かうんだ」
「はい。10時ですね?」
「そうだ、10時40分発の汽車で帰るんだ。チケットは明日御者から受け取ってくれ」
「ありがとうございます」
イアソン王子は…一緒ではないのだろうか?すると私の考えを察知したかのように答える王子。
「俺たちは一緒に帰らないほうがいいんだろう?俺は2時間遅れの汽車で帰る事にしているんだ。何しろ明日は大勢の生徒たちも学園に戻ってくるだろうしな」
「そうですか。お気遣い感謝申し上げます」
頭を下げてお礼を述べた。
「…」
すると、何故かイアソン王子は私をじっと見つめている。
「…イアソン王子?」
「…やめておけ」
「…え?」
突然王子は何を言い出すのだろう?
「ルペルトは…やめておくんだ」
「え?」
その言葉にドキリとする。
「あ、あの…イアソン王子…?」
「俺はよく知らないが…どうやらルペルトには婚約者がいるらしい」
「!」
思わず驚いてイアソン王子を見た。すると、王子は少しだけ悲しげな顔で言った。
「その反応…そうか、やはり…な。ルペルトのことを…」
「…」
もう何も言えず、思わず俯く私。
「とにかく、俺は忠告はしたからな」
そして私の前に右手を差し出してきた。
「ほら、乗るんだろう?」
「は、はい。ありがとうございます…」
イアソン王子の手を借りて、馬車に乗り込むと扉が閉じた。
「それじゃあ、新学期に会おう」
「はい…色々ありがとうございました」
窓から顔をのぞかせるとお礼を述べた。
「よし、出してくれ!」
「かしこまりました」
そして私を乗せた馬車は音を立てて走り出した。
イアソン王子は姿が見えなくなるまで、見送りをしてくれていた―。




