9-20 2度目の恋心
ルペルト様は私の荷物を持ってホテルの中へ入ると、フロントへ向かった。
「すみません、この荷物を後で彼女の部屋に届けて頂けますか?」
「はい、かしこまりました」
フロントマンはルペルト様に頭を下げると、私を見た。
「それでは今運びましょうか?」
「え…?」
今…?
私はルペルト様をチラリと見た。…欲を言えば、もう少し一緒にいて話がしたい…そう思ったけれども…。
「はい、すぐに運んであげて下さい」
ルペルト様は答え、笑みを浮かべて私を見た。
「それじゃ、ロザリー。元気でね」
「は、はい…。お元気で…」
やっぱり、もうここでお別れなのだ…。
本当は連絡先を尋ねて、文通したい。
けれど、私とルペルト様では立場が違いすぎる。何故なら彼は高位貴族であり、私は貧しい平民。
おまけに私は学園卒業後はユーグ様の元へ嫁がなくてはならない身。
「…」
ルペルト様は少しの間、私をじっと見つめ…右手を差し出してきた。
「?」
首を傾げてルペルト様を見た。
「お別れの握手をしよう」
「は、はい」
おずおずと右手を差し出すと、グッと握られた。
「いつか、また何処かでね」
「え?」
思わず顔を上げると、そこには笑みを浮かべたルペルト様が立っていた。
「それじゃあね」
スルリと手を離したルペルト様は踵を返し、去っていった。
「ルペルト様…」
その後姿を見て、ポツリと呟くと背後からフロントマンに声を掛けられた。
「ロザリー様」
「は、はい」
呼ばれて振り向く。
「ではお部屋までお荷物をお持ちいたしましょう」
その手には私の荷物が抱えられている。
「はい、宜しくお願いします」
こうして私はフロントマンと一緒にホテルの部屋へと戻った―。
****
部屋に戻った私は買ってきた服を箱から出し、改めてじっと見た。
本当に素敵な服だった。出来れば…この服を着た姿をルペルト様に見てもらいたかった。彼は会う度にいつも素敵な服を着ていた。
一方、私は…。
そして改めて自分の服を見て、ため息をついた。
「駄目ね…私って…。今着ている服だって、以前着ていた服に比べればずっと素敵なのに…もう欲を張るのはやめましょう」
そこまで考えて、私は今更ながら気がついた。
私は…ルペルト様に恋してしまったのだと。
レナート様に続いて、2度めの報われない恋を―。
17時半―
ドレスアップした私はホテルの出入り口で迎えの馬車を待っていた。すると真っ白い馬車がこちらへ向かってやってきた。御者の人は以前も私を乗せてくれた人だった。
彼は御者台から降りると、私に頭を下げてくる。
「ロザリー様ですね?お迎えに上がりました」
「ありがとうございます」
「では、どうぞお乗り下さい」
「はい」
そして私を乗せた馬車はお城目指して走り出した―。




