9-17 最終日前日
イアソン王子はホテルを出ていき、再び私は1人になった。
ミレーユさんとアンドレアさんはこのホテルに滞在している。確かにここにいると、いつ何処で2人に遭遇してしまうか分かったものではない。
それにどうやらミレーユさんは私とイアソン王子の仲を疑っているようにも感じるし…。
「私も部屋に戻った方が良さそうね」
そして自分の部屋へと足を向けた―。
パタン…。
部屋に戻り、扉を閉めると早速イアソン王子が渡してきた封筒の中身を確認することにした。
「給金と言っていたけど…いくら入っているのかしら?」
椅子に座り、封筒の中身を改めた。
「え…?う、嘘でしょう…?」
中身を見て驚いた。何と1万ダルクも入っていたのだ。
「そんな…たった数時間しか働いていないのに1万ダルクも…」
私が今アルバイトをしているお花屋さんは時給800ダルク。それに比べて昨日のバイトは比較にならないものだった。
「お城のメイドさんは…こんなに沢山お給金を頂いているのかしら…?」
私にはアルバイトの相場の時給というのがさっぱり分からなかったけれども、それでもこのお金は貰い過ぎだと感じた。
けれど、イアソン王子にこれではお金を貰いすぎだと言えば気を悪くしてしまうかも知れない。ここはありがたく受け取っておくことにしよう。
「…ありがとうございます。イアソン王子」
そして私はそのお金を財布にしまった―。
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その後、私はイアソン王子から頂いたお金で色々な場所へ行き、写生をした。
美しい町並みを写生したり、白い砂浜の海に行って写生をしたこともある。その時は灯台にも登った。それは生まれて初めの経験でとても楽しかった。
イアソン王子からはお給金を受け取った後は連絡が来ることも無く、私はしばしの間冬期休暇を満喫することが出来た。
ただ、願わくばせめてもう一度だけ…ルペルト様に会いたい…。
そう願ったけれども、結局ルペルト様にはあの日以来会うことも無く…ついにここに滞在する最終日の前日を迎えてしまった―。
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明日はここで冬期休暇を過ごす最後の日―。
この日、私はイアソン王子の招待を受けた。
朝いつものようにモーニングサービスを届けてくれたホテルの従業員女性がメモを渡してきたのだ。
「ロザリー様、イアソン王子からメッセージをお預かりしておりますのでお渡ししておきますね」
「…ありがとうございます」
朝食の乗ったワゴンとメモを預かった私は朝食を食べる前にすぐにメモを読んだ。
今夜18時に一緒に食事をしよう。
迎えの馬車を17時半によこすので、決してホテルから出ないように
イアソン
「一緒に食事…という事はあまりみすぼらしい格好は出来ないということよね?」
私は頭の中で、今夜イアソン王子と食事に行くのにふさわしい服は無いか頭に思い浮かべ…。
「駄目だわ…やっぱりきちんとした服を着ないといけないわよね…?」
そして…いざという時の為にとっておいた小切手を手にした。
「…本当は…使いたくは無かったけれど…」
小切手をショルダーバッグにしまうと、朝食を食べ始めた―。




