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9-13 待ち合わせ

  翌日―


 今日はまた、あの人に会える…。


そう思うと何だか心が落ち着かず、あまり眠ることが出来なかった。昨夜、メイドとして働いた疲れも多少はあったけれども、彼と会えることを考えれば不思議と疲れは吹き飛んでいた。


「あの人はどう見ても高位貴族だったわ…。せめて少しでもつり合いが取れるような服を着ないと…」


そこで私はクローゼットを開けて、じっと吊り下げられている洋服を見た。そして、暫く考えた末…1着の服に手を伸ばした―。




****


 11時15分前に私は彼との待ち合わせ場所である港のベンチに座っていた。

今日の私の装いは、チェックのシャツ型のボリュームのあるロングワンピースにエプロンドレス。裾からは白いフリルが覗いている。


「これくらいの服なら…多少は見栄えがするかも知れないわね…」


そして私は海の方をじっと見つめ、彼がやってくるのを待った―。




「あれ?もう来ていたんだ?随分早かったね」


少しの間、海を見つめていると不意に背後から声を掛けられた。振り向くとそこに立っていたのは、やはり昨日の彼だった。


「こんにちは、本日はお誘い頂きありがとうございます」


立ち上がり、深々と頭を下げて、改めて彼を見た。

今日の彼は紺色のベストに青の上下おそろいのスーツ姿だった。

やっぱり…その装いを見るだけで、彼が上流社会で生きる人だと言うことがすぐに分かる。

私とは…住む世界が違う人…。


「こんにちは。昨日はお仕事ご苦労さま、大丈夫?疲れてはいないかい?」


優しい笑みを浮かべて尋ねてくる彼。


「いいえ、大丈夫です」


「そう?それなら良かった」


そして彼はマジマジと私を見つめ…笑みを浮かべた。


「うん、昨夜のメイド服姿も似合っていたけど…今日の服もとても良く似合っているね?清楚な君にぴったりだよ」


清楚…。

そんな風に言われたのは今日が初めてだった。


「あ、ありがとうございます…」


きっとお世辞だろうけれども、私はその言葉に胸が高鳴らずにはいられなかった。


「それじゃ、僕も隣に座っていいかな?」


「ええ、どうぞ。おかけ下さい」


端に詰めると彼は私の隣に座り、早速肩から下げていたカバンの中からスケッチブックと色鉛筆を取り出した。


「あの、私も今日はスケッチブックと色鉛筆を用意したのです」


そして隣においたカバンを引き寄せると、安物のスケッチブック12色の色鉛筆を取り出した。


「すみません…あまり予算が無くて、こんな安物のスケッチブックと色鉛筆しか用意出来なかったのですけど…」


すると彼は首を振った。


「何言ってるんだい?そんなこと無いよ。絵を描ければ画材道具なんてどんなものでもいいんだから。さて、それじゃ始めようか?」


「はい」


そして、私と彼の写生の時間が始まった―。




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