9−5 クリスマスの打ち合わせ
画材屋さんでスケッチブックと色鉛筆を買った私は辻馬車を拾って、ホテルへ戻ってきた。
「お帰りなさいませ」
「ありがとうございます」
ホテルのフロントマンからルームキーを受け取り、部屋に戻ろうとした時―。
「ロザリーッ!今迄一体何処へ行っていたんだ?!」
突然鋭い声が聞こえ、驚いて振り向くと私の方へ大股でやってくるイアソン王子の姿が目に入った。
「あ…イアソン王子、こんにちは」
イアソン王子が目の前で立ち止まり、私は頭を下げた。
「何がこんにちは、だ…。一体今迄何処に行っていたんだ?」
その声は何処か私を避難めいて聞こえた
「申し訳ございません…海に行ってみたくなったので今迄出掛けていました」
「海だって?どこの?」
腕組みしながら尋ねてくるイアソン王子。
「ここから一番近い…イーストビーチがある港です…」
「イーストビーチ?それでビーチには行ったのか?」
「いえ…そこまでは…港で馬車を降りましたから」
「え?港だって?…あんな所で降り立って…つまらないだけだろう?それに海は船に乗らない限りは普通は夏に観に行くものだ」
「…はい…もうしわけございません…」
何故だろう?イアソン王子と話をしていると…いつも私は批難されているように聞こえてしまうのは。
「な、何も謝ることはないだろう?別にロザリーを責めているわけじゃないんだから」
イアソン王子の声のトーンが落ちる。
「はい」
「それで?港は楽しかったのか?」
「はい、楽しかったです。とても上手に風景画を描いている人がいて、隣で見せて頂きました」
その人から描きあげた絵を貰ったことは何となくイアソン王子には言えなかった。
「ふ〜ん…。それで相手は?男だった?女だった?」
「え…?男の人…でしたけど…?」
「…そうか」
イアソン王子は一言だけ返事をした。
「あ、あの…?私に何か用があっていらしたのですよね?」
一体イアソン王子は何をしにここへ来たのだろう?
「ああ、そうだ。今度のクリスマスパーティーの事について話をしにきたんだ。…取り敢えず、座ろう。こっちへ来いよ」
「はい」
イアソン王子は私に背を向けると、ロビーの中央に置かれたソファ席に向かった。そして着席すると私に声を掛けてきた。
「ほら。座れよ」
「は、はい
ガラステーブルを挟んで向かい側に座るとイアソン王子は早速言った。
「今度のクリスマスパーティーは12月24日に開かれる。招待客達が集まってくるのは午後6時だ。だからロザリーは17時にはメイド姿でパーティー会場に入っていてくれ」
「はい…」
こうして、私とイアソン王子のクリスマスパーティーの打ち合わせが始まった―。




