8-13 生まれも育ちも
結局、あの後強引なイアソン王子に半ば押し切られる形で10着の服を追加注文し、カウンターの上には大量の箱が積み上げられた。
「う〜ん…流石に全て馬車で運ぶのは無理があるな…。仕方ない、残りの箱は滞在先のホテルに送って貰うようにしよう」
イアソン王子の言葉を聞いた私は慌てた。
「す、すみません。イアソン王子。実は…そのホテルの件でお願いしたい事があるのですけど」
「ホテルの?もう少し広い部屋に移りたいのか?」
「まさか、そんな筈ありません。第一あのお部屋は特別室なのですよね?私にはあまり贅沢過ぎます。それよりも…」
そこで私は言葉を切った。こんなカウンターでやり取りをしていればおじいさんを困らせてしまう。
「どうした?ロザリー」
イアソン王子は私が突然黙ってしまったので首を傾げた。
「いえ、何でもありません。では馬車に乗せられる分だけお願いして、残りはホテルに運んで頂けますか?」
「分かった。そうしよう」
そしてイアソン王子はおじいさんに私が宿泊中のホテルの住所を教えた―。
****
帰りの馬車の中―
「ロザリー。何だか顔色が優れないようだが、どうかしたのか?」
向かい側に座るイアソン王子が尋ねてきた。
「あの…それではお願いしたい事があるのですが…」
「お願い?」
「はい。やはりあのホテルは私には高価過ぎます。あのように広い部屋は分不相応です」
「何を言い出すかと思えば…またロザリーはそんな事を考えていたのか?だいたい、卒業と同時に君は大公家に嫁ぐんだろう?しかも本当ならこんな貧しい暮らしに身を置くような身分じゃないじゃないか」
イアソン王子はため息をついた。
「ですが、私は生まれた時から貧しい暮らしを…平民として生きてきたのです。母の顔すら知りませんし、実の父の事も知りません。私を育ててくれた父は…本当は城で母の執事をしていたくらいの人物なので、もっと良い仕事にだって就けたはずですが、私という存在が発覚するのを恐れて…わざと田舎暮らしの貧しい生活を…。私もその生活が身に染み付いているのです。今更考えを改めるように言われても…無理です」
自分の考えを述べ、イアソン王子を見ると何故か私をじっと見つめている。
「あ、あの…何か…?」
「いや、驚いているんだよ。まさか…おとなしいロザリーがここまではっきり物を言うとは思わなかったよ。周りに流されているだけのいい子だと思っていたけど…本当はそうじゃなかったのかな?」
イアソン王子はどこか面白そうな笑みを浮かべて私を見た―。




