8-11 私の好きなデザイン
「な、何という…ま、まさか王族の方がこの様な下町の被服店にいらっしゃるとは…!」
出迎えてくれたお店の人はおじいさんだった。
「この下町では、一番の大きさを誇る被服店だろう?」
イアソン王子の言葉におじいさんは頭を下げた。
「はい、一応そうではありますが…」
「そうか、なら種類も豊富にあるだろう?彼女に似合う服を20着ほど見繕ってくれないか?」
「えっ?!2、20着ですかっ?!」
おじいさんは驚いた顔でイアソン王子を見た。
「ああ。何だ?少ないか?」
「そ、そんな。イアソン王子…。私は10着でも多いと思っている程なのですけど」
するとイアソン王子は私を見ると言った。
「ロザリー。はっきり言うが、君が今着ている服はあまりにもみすぼらしい。そう思わないかい?」
「そ、それは…」
確かにそうかもしれないけれども、これでも精一杯良い服を着ているつもりだった。
するとおじいさんがイアソン王子に尋ねて来た。
「ここで扱っている服ですが、庶民の服しかありません。本当にそれでも宜しいのでしょうか?」
「ああ、大丈夫だ。何しろ彼女がそれでいいと言ってるのだからな」
イアソン王子はチラリと私を見ると言った。
「ロザリー、時間など気にせずにゆっくり自分に合った服を選ぶんだ。俺は1時間ばかり席を外すから。その間に買い物が出来るだろう?」
「はい、ありがとうございます」
私に気を使って席を外してくれるのだろうか?
「それじゃ、又後でな」
イアソン王子はそれだけ言うと、護衛の男性を連れて店を出ていった。
「ではお嬢さん、こちらへどうぞ」
おじいさんは私を連れて売り場へ案内してくれた―。
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連れて来られたのはは女性用の服がハンガーに吊るされて売られている売り場だった。ここには私の他に10名程の女性客達が服を選んでいる。
「そうですね…お嬢さんの背丈でしたら、恐らくこの辺りのサイズが丁度良いかと思います。サイズ順に並んでおりますのでお気軽に試着してみて下さい。試着室はあちらにありますので」
おじいさんが指し示した先にはいくつものカーテンで仕切られた小部屋があった。
「ありがとうございます」
「ごゆっくりどうぞ」
それだけ言うと、おじいさんは去っていった。
「すごい数の服だわ…」
さすが下町で一番大きいお店だけの事はあった。試しに1着手にしてみることにした。
ベージュ色の花柄のロングワンピースはとても可愛らしい。また、袖口と裾にあしらわれた白いフリルも素敵だった。
「こういう服なら…イアソン王子に恥を欠かせないかもしれないわね…」
イアソン王子には20着と言われていたけれども私にはそんなに沢山の服は必要なかった。
そこでとりあえず10着だけ服を選ぶことにした―。




