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8-10 下町へ

 馬車はイアソン王子の命令で進路を変えて下町へと向かっていた。


ガラガラガラガラ…


走り続ける馬車から窓の外を見ると、何処か素朴な光景が広がっている。大きな路地の左右にはこじんまりした店が立ち並び、町を歩く人達は色合いが地味な服装だった。そして彼等は滅多に目にしない王族の馬車に驚き、目を見開いている。


「イアソン王子…」


私は向かい側に座るイアソン王子に声を掛けた。


「何だ?」


「この馬車…とても注目を浴びていますね」


「そうだな。平民達からすれば…王族の馬車を目にすることは滅多にないだろう。普通、下町へ行く場合は目立たない馬車に乗り換えてくるからな」


「え…?そうだったのですか?知りませんでした」


どうりで注目を浴びるはずだ。


「ああ、こちらも聞かれなかったから話さなかった」


イアソン王子は何処か意地悪そうな笑みを浮かべて私を見た。


「…」


知らなかった。イアソン王子は…本当はこんな性格だったのだろうか?


「何だ?何か言いたいことでもあるのか?」


「いいえ、ありません。ですが…ありがとうございます」


「何故礼を言うんだ?」


不思議そうに首を傾げる王子。


「はい。この様に目立つ馬車にも関わらず、私のお願いを聞き入れて下さった事に対してです」


「ああ。別にそれ位の事、気にする必要は無いさ。…そろそろ着きそうだな」


窓の外を眺めながらイアソン王子が言った。私も窓の外を見ると、そこには2階建てに青い屋根の大きな白い建物が見えてきた。


「あの青い屋根のお店がブティックなのですか?」


「ああ、そうだ。尤もこの辺りではブティックとは言わず、『被服店』と言ってるけどな」


「そうですか…」


そして馬車は被服店の前で停車した。


「よし、降りよう」


「はい」


イアソン王子に声を掛けられ、私は返事をした。




 イアソン王子と2人で馬車から降りると、まるで私たちを囲むように人だかりが出来ていた。彼等は美しい馬車に驚き、見学しに来たようだった。


「あれ…ひょっとしてあの方はイアソン王子…?」


「いやぁ、まさかそんなはずはないだろう」


「そうよ。王子様がこんな場所に来るはずないわ」


「それにしても何だか似ているなぁ…」



ヒソヒソ声は私達の耳にまでしっかり届いている。


「あ、あの…イアソン王子…?」


恐る恐るイアソン王子を見上げる。


「別に気にする事は無い。彼等は俺王子かどうかも良く分かっていないのだから。それじゃ、中へ入ろう」


イアソン王子は私の手首を握りしめると、被服店へ向かって歩き出す。


そしてその後ろを護衛の人達もついてきた―。



 




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