8-5 知られていた私の秘密 1
王女の娘…。
その言葉から、もうイアソン王子に私の出自が知られているのは明らかだった。
「イアソン王子…何処まで私の事をご存知なのですか?」
足の上に置いた両手をギュッと握りしめながら私は尋ねた。
「何処まで知っているか?…多分、ロザリーと同じ位知っているかもしれないね」
イアソン王子は足を組むと視線を窓の外に向けた。
「でも安心しろ。誰にも言わないから。そうしてもらいたいんだろう?」
「え?」
するとイアソン王子は再び視線を私に向けた。
「ロザリーは自分の事を誰にも知られたくは無いのだろう?」
「はい…そうです。皆から好奇の目で見られるのが…嫌なのです。大体…私は自分の母の顔すら知りません。母が王女である事も…全く実感が湧きません」
「まぁ…普通に考えればそうだろうな?自分が生まれてすぐに亡くなってしまえば…しかも貧しい農家の家で生まれたとなればね?」
「…はい、そうです…それに、私はが今まで父親だと思っていた人が本当は赤の他人だった事を知ったのも、半年前なのですから」
「半年?それじゃ君の育ての親は16年間、ずっと君が王族であることを内緒にしていたのかい?まぁ…でもそれは無理もないか。君の母親は…逃げてきたのだから」
「本当に…私の事をよくご存知なのですね…?」
「当然だろう?同じ王族なのだから…あの当時は大騒ぎで一大スキャンダルだったそうじゃないか?大公家に嫁ぐ予定の王女が逃げ出したって言うのだから。しかも身元も分からない男との間に子供が出来ていたとなれば、当然逃げたくもなるはずだ」
イアソン王子は淡々と語る。
「それにしても…大公殿下は随分執念深い人だったんだね?妻となるべく、君の母親が手に入らなかったから、今度は娘の君を手に入れようとしているのだろう?考えただけでおぞましい話だよ」
何て大胆な事を口にするのだろう。私は慌てて止めた。
「イアソン王子、あまりその様な話はしないほうがいいと思います。何処で誰に聞かれるとも限らないではありませんか」
しかし、王子は平気な顔を見せる。
「まさか、この話を誰かに聞かれるとでも思うのかい?こんな馬車の中の会話を誰かに盗み聞きされるはずないだろう?」
「それはそうかもしれませんが…でも、ユーグ様は…私の居場所を…突き止めました」
「…そうだね。長い時間を掛けてね」
「そうですね…」
「だけどそれにしても酷い話だよ。いくら政略結婚だったからと言って、あくまで婚姻を交わす相手はロザリーの母親だったのに…母親の逃げた責任を娘に押し付けてくるのだから。俺から言わせると正気の沙汰じゃない」
イアソン王子は何処かイライラした口調で言う。
…もしかすると、ユーグ様の事を嫌っているのだろうか…?
私はそっとイアソン王子を見た―。




