7-13 私の過去
午後4時―
総支配人から直々に部屋の説明を受け、ようやく1人きりになれた。
「ふぅ…何だかとても疲れたわ…」
説明では午後6時半に部屋に食事が届けられると言う。
このホテルには大きなレストランがあり、そこで自分の好きな料理を注文して食事が出来るようになっていた。
またルームサービスも頼めるのだが、その場合は料理を選ぶ事は出来ない。
そして、選んだのは勿論ルームサービスだった。何故ならこんな平民の服装をした私が一流ホテルのレストランに現れたら、途端に他のお客さん達から好奇の目を向けられるかもしれない。それどころか、何故あんな貧しい身なりの娘がここにいるのだと言わんばかりの視線を浴びせられるかもしれない。
「食事が届くまで後2時間半…少し休ませて貰いましょう」
まだ日があるうちからベッドに横になるのは気が引けた。そこで私は部屋に置かれた長ソファに横たり、クッションをピロー代わりにすると目を閉じた―。
****
…私は夢を見ていた。
あの『フロン』での懐かしい生活。
貧しかったけれども穏やかで幸せだった生活。
父がいて、そしてダミアン、フレディと一緒に身を寄せ合うように暮らしていたあの頃。
それがある日、突然壊された。
今まで一度も見たことが無い立派な馬車が我が家にやって来た。
黒塗りに馬車のは金のレリーフの飾りが施され、車輪の黄金色に輝いてた。そして降り立ったのは、明らかに身分が高そうなおじいさん。
その方の周囲には護衛の騎士と思しき人達がいた。
この時、私はたまたま庭の花壇でハーブの採取を行っていた。
そして突然現れた美しい馬車。そして降り立った人々を目にし、とても驚いてしまった。
「君がロザリーだね?」
身なりの良いおじいさんは私を見ると尋ねて来た。
「は、はい。そうですが…?」
途惑いながら返事をする。
「そうか。やはり…。母親にそっくりだ」
「え…?私の母を知っているのですか?」
「ああ、勿論」
「あの、所でどちら様でしょうか?」
私の問いにおじいさんは笑った。
「そう言えばまだ名乗っていなかったね。私の名前はユーグ・フォン・ローデン。君は『ローデン公国』と呼ばれる国を知っているかね?」
「『ローデン公国』…?確か美しい森と湖に囲まれた貴族を君主として治めている国だと父に聞いたことがありますが…あ、まさか…」
「そうだよ。私がその『ローデン公国』の統治者…大公だ。ロザリー。君はこの国に嫁ぐ事が決められているのだよ?君の母親の代わりにね…」
「え…?」
この時、私は自分の出生の秘密を始めて知ることになる―。




