7-8 嘘か本気か
「イアソン王子、お待たせ致しました」
イアソン王子は先程話をしていた4人の家族連れを見届けていた為、声を掛けられて初めて私に気付いた様子でこちらを見た。
「ああ、ロザリーか。どうしたんだ?少し遅かったじゃないか」
王子は駅舎の壁に掛けられた大きな時計を見ると、私に言った。
「はい、申し訳ございません。あまりにも人が多くて戸惑ってしまったものですから」
まさか、先程の家族に遠慮していたからだとは言えない。
「ふ~ん…まぁ、確かにそうだな。季節がら、この期間は特に観光客が多いからな。よし、それじゃ行こう。荷物はこれだけか?」
イアソン王子は私の足元に置いたトランクケースを指さした。
「はい、そうです」
「よし、分った」
するとあろう事か、イアソン王子が私のトランクケースを手に持った。
「い、イアソン王子。何をされるおつもりですか?」
慌ててイアソン王子に声を掛けた。
「何って、決まっているだろう?駅舎の外に馬車を待たせてある。そこまで運ぼうとしているだけだが?」
歩きながら王子は返事をした。
「そんな…仮にもイアソン王子に荷物を運んで頂くなんて、恐れ多い事です。荷物位自分で持ちますので…」
するとイアソン王子はどこかムッとした様子で私を見た。
「いいか?ロザリー。王子だからとかそんな身分は関係無い。俺は男だからお前の荷物を持ってやっているだけだ?分ったか?」
「は、はい…申し訳ございません…」
自分の荷物をこの国の王太子に持たせている…。酷く恐縮してしまう事だが、ここは素直にイアソン王子に従った方が良さそうだ。
そうして私はイアソン王子から1歩下がって歩こうとすると、そこでまた王子から指摘を受けた。
「何だ?今度は何故後ろに下がる?隣に並ばないと話も出来ないだろう?」
「はい」
慌てて私はイアソン王子の隣に並んで歩きだした。
それにしても…。
イアソン王子は自分の身許が知られないように帽子を被っているのかも知れないけれども、駅舎にいる人々の間では既に彼が王子であると言う事がバレている様子だった。その証拠にこちらを見て、何かヒソヒソと話をしている姿があちこちで確認出来る。
…だから、離れて歩きたかったのに…。これではあらぬ誤解を生んでしまわないか不安になって来た。
「…おい、何故さっきから黙っている?」
背の高いイアソン王子が私を見降ろしながら尋ねて来た。
「え?それは…」
親し気に話している姿を見られれば、ますます誤解を生んでしまうからです…とは、とても言えなかった。そこで私は話題を考えて質問する事にした。
「イアソン王子には、やはり決められた方はいらっしゃらないのですか?婚約者とか…もしくは将来を誓い合ったお方とかは…」
「そんな女性はいない。でも…ロザリーに特別な相手がいなければ、申し込んでもいいかもしれないな?」
イアソン王子は何所まで本心か嘘か分らない事を言い、口元に笑みを浮かべた―。




