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7-6 特別車両

 その日の夜は学園近くにあるパン屋さんからサンドイッチを買って、自分の自室で食べた。そして…思った。


今頃、家族はどうしているのだろうと…。私の脳裏には今もダミアンの泣きそうな顔が頭から離れなかった。


「ごめんなさい、ダミアン。私は…どうしても貴方の気持には…応えられないわ…」


気付けばポツリと口に出していた。


そして、この日の夜はこれからの事を考え…なかなか寝付く事が出来なかった―。



****


 

 翌朝8時40分―


 この日も雲一つないすっきりと晴れた空だった。

今、私は『セントラルシティ』の駅舎に立っていた。相変わらず駅舎には多くの人がひしめきあい、とても賑わいでいた。


 そして私の手には、昨日イアソン王子から貰った汽車のチケットがしっかりと握りしめられている。


「確か…『ヘンデル』行きの汽車は1番ホームだったわよね…」


大きなトランクケースを握りしめた私は、1番ホームへ向かった。



 ホームには既に黒塗りの汽車が蒸気を吐きだしながら停車していた。


「え…と…私の座席は…3列目の1番シートね…」


チケットの座席を確認すると、早速汽車に乗り込んだ。



「え…?」


汽車に乗り込んだ私は戸惑ってしまった。驚くことに私が乗り込んだ車両は特別車両だったのだ。


「やだ…座席を見間違えてしまったのかしら?」


慌ててショルダーバッグからチケットを取り出し、再確認してみた。


「…合ってるわ」


そんな…まさかイアソン王子は私の為に特別車両の座席を取ったのだろうか?


「困るわ…。私はこんなみすぼらしい服を着ているのに…」


改めて自分の着ている服を見た。

着古したグレーの防寒コートの下から見えるのは少し、色褪せたロングブーツ。

それでも自分なりに一番まともな恰好をしているつもりではあったけれども、とてもではないが、特別車両に乗るような人物には見られないだろう。


「車掌さんが私を見たら…きっと変に思うでしょうね…」


ただ、幸いなのはこの特別車両の私が座る座席はアコーディオンカーテンで塞ぐ事が出来る。カーテンを閉めてしまえば他の乗客の人達に自分の姿を見られなくても済むのだ。


「誰か人が乗り込んで来る前にカーテンを閉めてしまいましょう」


都合の良い事に。この車両に乗り込んでいる乗客は私一人だけだった。

私はすぐにアコーディオンカーテンを引くと、ようやく人心地がついた。


座席に座り、窓の外を眺めているとやがて汽車が大きな汽笛を鳴らしてゆっくり滑るようにホームを出発した。


「『ヘンデル』…一体どんな国なのかしら…」


話によるとこの国は温暖な気候に恵まれた王国らしい。


「温かいのは助かるわ…」



ぽつりと呟くと、急激に眠気が襲ってきた。私は目を閉じると、少しの間汽車の中で眠ることにした―。




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