1-11 初恋の人の婚約者
「ロザリー、一番後ろの座席が空いてるわ。座ってしまいましょう」
教室に戻るとレナート様とイアソン王子の姿がなかった。2人はフランシスカ様の所へ行っているのだろうか?
「ええ、そうね」
言われて席に着こうとしたその時、私は自分が女子生徒たちから見られているということに気がついた。貴族の女子生徒たちは明らかに怒りの眼差しで私を睨みつけていた。そして平民の女子学生達も冷たい視線で見つめている。
「…」
思わずいたたまれなくなり、うつむくとアニータが耳元で囁いてきた。
「大丈夫、気にすること無いわ。じっとしていればそのうち、皆気にしなくなるわよ。それに一番後ろの席に座れば目立つこともないでしょう?」
「ええ…そうね」
私は頷き、アニータと2人で一番後ろの席に並んで座った。
その直後に、機嫌が良さそうなイアソン王子とレナート様がほぼ同時に教室に入って来た。2人が一緒に戻ってきたことに教室がざわめき、イアソン王子は私を見た。
「おや?」
小さい声でつぶやくように言うと、イアソン王子は何事もなかったかのように今度は何故か高位貴族の生徒の列に座ってしまった。隣に座られた女子学生は顔を真っ赤にさせると、すぐにイアソン王子は今度は次にその女生徒に親しげに話しかけ始めた。
その様子を見て私は思った。
イアソン王子…ひょっとして私の為に…?
「ほら、見て。ああやってイアソン王子は気まぐれに女子生徒に話しかけているのだから…気にする事無いわよ」
アニータがチラリとイアソン王子を見ながら言う。
「ええ、そうね…」
頷きながら気がついた。そう言えばイアソン王子に気を取られてばかりだった。肝心のレナート様はどうしているのだろう。キョロキョロと視線を移せば、レナート様は先程罵声を浴びせられていた平民の男子生徒の隣に座り、声をかけていた…やはりレナート様は優しい方だ…。レナート様を見つめているだけで自分の心臓の音が高鳴るのを感じた―。
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今日は入学式という事もあり、2時限目に行われたカリキュラムの説明で本日の授業は全て終わりとなった。チャイムが鳴り、担任の先生が教室を出て行くと、途端に上位貴族の女生徒達がイアソン王子に群がって大騒ぎになっていた。その様子を羨ましそうな目で見る下級貴族の女子生徒たち。他の男子生徒たちはつまらなそうな顔でその様子を見ながら教室を出ていく。
「ほらね。皆さっきの事…忘れているわよ」
片付けの準備をしているとアニータが話しかけてきた。
「ええ、そうね。良かったわ」
すると、そこへ既に帰り支度の済んだサリーとアリエルがやってきた。
「ねぇ、この後どうする?」
アリエルが私達に尋ねてきた。
「そうね。このまま寮に帰ってもいいけど…どうしようかしら…?」
アニータが首を傾げると、サリーが言った。
「それならカフェに行かない?何か甘いものでも食べに行きましょうよ」
甘い物…。カフェには行きたいが、お金が発生してしまう。彼女たちは平民だがお金持ちである。カフェ代を払うくらいは何て事は無いだろう。だけど私は…。
「ごめんなさい、私…手紙を書かなければならないの。残念だけど、今日は遠慮しておくわ」
私の言葉にアニータが言った。
「あら、それって夜では駄目なの?」
「え、ええ。なるべく早く手紙を書いて出すようにお父様に言われているの」
「それなら仕方ないわね…」
サリーが言う。
「ええ、折角なのにごめんなさい」
「じゃ、また今度一緒に行きましょう。それじゃせめて校舎の外まで一緒に行きましょうよ」
アリエルが私に言った。
「ええ、そうね。それじゃ一緒に行きましょう」
鞄を持って立ち上がり、私は3人の友人たちと教室を出た。すると前方から真っ白な制服を着た女子生徒がこちらへ向かって歩いてくる。その女生徒は金色に長く輝く美しい髪に、紫色の瞳の女子生徒だった。
「「「こんにちは」」」
友人たちがその女子生徒に頭を下げたので、私も慌てて頭を下げる。しかし、その女子生徒は私達を気にする事もなくすれ違って行った。
そしてアニータが私に教えてくれた。
「見た?あの方がフランシスカ様よ。レナート様の婚約者なの」
「え…?あの方が…?」
何て綺麗な人なのだろう…。
それが私の第一印象だった―。