6−14 2人には言わないで
「姉さん…無事で良かった…っ!」
ダミアンはきつく私を抱きしめ、声を震わせている。
「ちょ、ちょっとダミアン。そんな大げさよ。幾ら何でも…」
しかし、ダミアンは抱きしめる手を緩めようとしない。それどころかますます腕に力が込められていく。流石に呼吸が苦しくなってきた。
「ダ、ダミアン…く、苦しいわ…は、離してくれる…?」
しかし、私の声が聞こえていないのかダミアンは抱擁を解いてくれない。
「ちょ、ちょっと兄ちゃん!姉ちゃんが苦しがってるぞ!離してやれよっ!」
流石に見かねたのか、フレディが声を掛けて来た。
その時―。
「ダミアンッ!お前…自分の姉に何をしているんだっ!」
突然ダミアンの背後で父の険しい声が聞こえて来た。
「!」
その声にダミアンはビクリと肩を動かし、腕の力を緩めた。その隙にフレディが私の身体を引っ張ってダミアンから引き離した。
「あ…ね、姉さん…」
ダミアンの顔色は何故か真っ青になっている。
「どうしたの?ダミアン…?」
するとそこへ父が大股に近付き―。
パーンッ!!
冬の空に乾いた音が響き渡る。父が突然ダミアンの左頬を叩いたのだ。
「お父さんっ?!」
あまりにも突然の父の行動に私は危うく悲鳴を上げそうになった。父はそれでも怒りを抑えられないのか、ここが町中であるにも関わらずダミアンを怒鳴りつけた。
「ダミアンッ!お前は…姉であるロザリーに何をしていたのだっ?!」
「…」
しかし、ダミアンは口を閉ざしたまま、叩かれた頬を手で押さえている。
「待って、お父さん。そんなに怒らないであげて。ダミアンは私を助けてくれたのよ?」
すると父は私を振り向くと言った。
「ロザリー。フレディと一緒に家に帰っているんだ」
「え…?で、でも…」
こんな気まずい雰囲気の2人を残して帰る訳にいかない。
「いいから、早く行きなさいっ!」
「は、はい…」
いつもとは違う、厳しい言い方に私は納得するしか無かった。
「行こう。姉ちゃん」
フレディに袖を掴まれて引っ張られる。
「う、うん…」
そして私は父とダミアンをその場に残し、フレディと馬車に乗った―。
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ガラガラガラガラ…
家へと続く並木道を馬車に乗りながら、フレディがポツリと言った。
「実は…姉ちゃんが…寄宿舎付きの学校へ行ってしまってから…2人の様子がおかしかったんだ…」
「え?」
「兄ちゃん…よくお父さんに食って掛かってたんだよ。何で姉ちゃんを学校へやってしまったんだって。…俺は逆に勉強させて貰えるんだからいいじゃないかって思ったんだけどさ」
「そう…」
フレディは私が何故リーガル学園に入学する事になったのか、その経緯を知らない。
「それでしょっちゅう喧嘩するようになっていたんだ。お父さんには姉ちゃんが心配するといけないから、絶対に黙っているように言われたんだけど…」
「そうなの?フレディ?」
「うん…」
フレディはコクリと頷くと、次に慌てた様子で言った。
「あ、でもこの事は絶対に2人に言わないでくれるかな?」
「勿論よ。2人には絶対に言わないから安心して?」
「あ、ありがとう!姉ちゃんっ!」
フレディは嬉しそうに返事をした―。