6−12 姉と弟の会話
「まぁ…とても立派な厩舎ね」
家の裏手に建てられた木製の厩舎は真新しく、まだ木の香りが漂っていた。厩舎には大きな窓が取り付けられ、屋根の部分にも窓がついているので、十分に明るい日差しが厩舎の中に差し込んでいる。そして1頭の黒い毛並みの美しい馬が大きな瞳でこちらをじっと見つめていた。馬の足元にはたっぷりと藁が敷き詰められている。
「馬もとても美しいわね」
「そうだろう?しかも賢いんだぜ。性格もおとなしいし…近所でも評判の馬なんだ」
フレディは自慢げに言う。
「ええ、そうね…」
ユーグ様がプレゼントしてくれた馬なのだから素晴らしいのは当然だ。
「それじゃ行こうか。姉ちゃんはもう馬車に乗って待っていろよ」
「ええ、ありがとう」
そして私は厩舎を後にした―。
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ガラガラガラガラ…
フレディが御者台に座り、私は荷馬車の上から空を見上げた。青く済んだ空には綿雲が所々に浮かんでいる。
「今年はまだ雪が降らないのね」
白い息を吐きながら御者台に座るフレディに声を掛けた。
「うん、そうなんだよ。毎年この頃は雪が降っているんだけどな〜…でもクリスマスの頃には降るんじゃないかな」
「ええ、そうね。そうだ、私アルバイトのお金を持ってきたのよ。今年は思い切ってそのお金でチキンを買わない?ケーキも買えるはずよ」
「え?アルバイト代っていくら持ってきたの?」
「2万5千ダルクよ」
「…2万5千ダルクか…」
フレディはため息をついた。
「え?…どうかした?」
「いや…なんでお父さんも兄ちゃんも…それに姉ちゃんまでそんな僅かなお金の為に必死で働くのかな〜。ユーグ様から小切手だって貰ってるのに、ちっとも使おうとしないんだよ。俺がいくら言ってもだぜ?そのお金には手を付けちゃ駄目だって言うんだ。一度俺が小切手を使おうとしたら兄ちゃんにバレて、ものすごく怒られたんだよ。あれには本当に驚いたな〜」
「え?そ、そうだったの…?」
知らなかった。まさかユーグ様がお金の援助まで…。
「なぁ、姉ちゃんだってユーグ様から援助受けているんだろう?なのになんでそんな僅かなお金の為にアルバイトなんかしてるんだよ」
フレディが口をとがらせた。
「僅かなお金って…」
フレディは変わってしまった。ユーグ様から色々援助してもらえるようになって…お金の感覚が狂ってしまったのだろうか?
「フレディ…いい?自分で労働してお金を得なければ意味が無いのよ?人から施しを受けるのは…あまり褒められた事ではないわ」
自分でも言ってる事が矛盾しているのは分かっていたけれども、フレディには世の中の厳しさを知ってもらいたかった。
「ふ〜ん…。貰えるものは貰っておけばいいのにな」
フレディはボソリと言うと、口笛を吹き始めた―。