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6-11 何も知らない

「ねぇ、フレディ」


2人で井戸の前で洗濯をしながら私はフレディに話しかけた。


「何?う~冬の洗濯はきついなぁ~…」


冷たい水で洗濯物をすすぎながらフレディは手に息を吹きかけながら返事をした。


「お父さんとダミアンの事だけど…2人共何だか様子がおかしかったのよ。何か心当たりはないかしら?」


「え?う~ん…。ごめん。俺にはよく分らないや。でもいつもと変わらない気がするけどな。兄ちゃんや父さんは仕事で朝から晩まで一緒にいるけど、俺は朝と夜の事しか分らないからなぁ」


「そう…そうよね」


2人と一緒にいるフレディが様子がおかしいと思ってないのだからきっと私の気のせいのだろう。


「何?どうかしたの?姉ちゃん」


「ううん、何でもないの。ごめんね。変なこと言って…気にしないでくれる?」


「うん、分ったよ」


こうして私とフレディはその後は2人でたわいもない話をしながら洗濯を続けた―。




****


「姉ちゃん。町へ買い物に行くけど一緒に行かないか?」


2人で昼食を食べ終え、台所で後片付けをしているとフレディが声を掛けて来た。


「そうね。町に買い物へ行くのは久しぶりよね…。行くわ。でも…馬車はもうないんじゃないの?」


するとフレディは笑みを浮かべた。


「それがいるんだよ。この家の裏に厩舎を建てたんだよ。今、我が家には2頭の馬がいるのさ」


そう言えば、父とダミアンが出掛けた後も時折馬の鳴き声が聞こえていたけれども…。


「それじゃあの馬のいななきは家の馬だったの?」


「うん、そうだよ」


「すごいじゃない…以前は馬の無い生活をしていたのに、今では2頭もいるなんて」


「これも全部姉ちゃんのおかげさ」


「え?私の…?」


一体どういう事だろう?


「姉ちゃんがユーグ様のところへ行くって話が決まってからなのさ。色々して貰えるようになったのは…厩舎だけでなく、馬と馬車までプレゼントしてくれたんだから」


「そ、そうなの…」


やっぱり私の知らないところで…我が家は援助を受けていたんだ…。


「でもさ、父さんはユーグ様から色々な物を貰っても嬉しくなさそうだし…兄ちゃんなんかすっごく怒るんだぜ。そんなもの送り返せって」


フレディが不服そうに口を尖らせる。


「え?ダミアンが?」


「そうさっ!あんな兄ちゃん…珍しいよ」


「そんな…」


信じられなかった。ダミアンは大人しくて心優しい弟なのに…。


「何でお金持ちのユーグ様からプレゼントされても父さんも兄ちゃんも喜ばないんだろうな~」


フレディは不思議そうな顔で呟く。


「…」


私は黙ってその話を聞いていた。


フレディ…この子は何も知らない。ユーグ様の正体を。そして…何故我が家に良くしてくれるのかを。


もし…フレディ。


私が学園を卒業後、殆ど身売りされるのも同然で親子以上に年上のユーグ様の元へ嫁ぐという話を知ったらどうなるのだろう?


私の事を軽蔑するだろうか…?


私は黙ってスカートを握りしめた―。

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