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陛下は執務室に入るなり殿下をソファーへ放り投げた。相当怒っていらっしゃるのか、あまりにも乱暴な扱いに私は少し殿下が可哀想だと思ってしまったわ。ほんの少しだけれど。
「お前がこんなにも愚かだとは正直がっかりだ。バレリーから婚約破棄宣言をしようとしていると聞かされても、そんな馬鹿な事はしないと信じていた」
「ですが父上、バレリーは自分の立場を利用しジェニーを虐めていたのです。証人もおります!こんな心根の卑しい者が王妃に相応しいとは思えません。僕は間違ったことは言っておりません!」
引きずられ、投げられたせいで身体が痛いのだろうか、ソファーにゆっくりと体を起こした殿下は、それでもなお私への侮蔑の言葉をまくし立て、陛下の隣に座る私をビシッと指差し、諸悪の根源はお前だ!とばかりに睨んでくる。
先程陛下に叩かれた時は呆然自失状態だったのに、復活が早いこと。自分が正しいと本気で思っているのでしょうね、可哀想な人。
「…証人か。お前はその者達の言葉をちゃんと聞き、きちんと調査をした上で真実だと判断したと?」
「勿論です!彼らが嘘を吐く訳がない。ジェニーはバレリーを見るのすら怖いと涙を流しながら嫌がらせを受けていると、助けて欲しいと僕を頼ったんです」
「そうか…、彼らを中へ」
「はい」
らちが明かないと判断した陛下は、私に最後の命を出した。扉を開けるとそこには先程殿下と共に私を断罪した3人とジェニー嬢がいる。
「どうぞ中へお入りください」
「失礼致します」
「ジェニー…」
真っ先に彼女の名を呼び、近づいて抱きしめようと手を伸ばす殿下を制したのは、ジェニー嬢本人だった。
「エドワード殿下、近づかないで頂けますか」
先程まで殿下の腕の中で震えていたとは思えない程落ち着いた声で殿下を制する。そして、そのまま陛下の座っているソファーの後ろに立った。残りの3人も同様にジェニー嬢の横に並ぶ。
これから本当の断罪劇が始まりますわ、ご覚悟を殿下。
「エドワード、彼らは私の命令でお前に近づいた私の影たちだ」
ジェニー嬢を含め4人は無表情のまま、その言葉に大きく頷いた。
「えっ?」
「お前の王としての資質を試すためにな…」
そう、エイグ王国には次期国王になる為の試練がある。国を治める王としての資格があるか、国王陛下が見定めるのだ。
判断力、決定力、見極め力、公平力、人望そういったものが備わってこそ国を治めることが出来る。その為の試練なのだ。
国王からこのことを聞いた時、私は悪趣味な試練だと思った。自分の息子を罠にかけ一部始終を監視するなど親のすることだろうかと。
だが、もし万が一国王になってから今回のようなことが起こった場合、苦労するのは私なのだと思ったら試してみるのも悪くはないと思ったのだ。